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2022年8月25日 (木)

俳句とからだ 186 西川火尖句集『サーチライト』

連載 俳句と“からだ” 186

 

三島広志(愛知県)

 

西川火尖句集『サーチライト』

西川火尖の第一句集『サーチライト』(文學の森、2021)2006年からの277句を収めている。西川は1984年京都市生まれで「炎環」(石寒太主宰)所属。 詩歌俳同人「Qai(2018)結成、「子連れ句会」運営など精力的に活動している。受賞歴に「炎環みらい賞」「北斗賞」がある。句集名のサーチライトは探照灯のことで一方向に強い光を照射し遠くの敵などを捜索する光源だ。句集全体をサーチライトが照射し、あたかも作品の読み方を誘っているようなタイトルだ。

 

句集は「四隅」「波」「粒」「光」の四章から成り、いずれも光を連想させる。章立ての前に一句

 

映写機の位置確かむる枯野かな

 

が置かれ、句集のテーマを明示している。映写機も闇に光を照射する。枯野で映写機の位置を確かめる行為は示唆的である。西川は映写機の位置を確かめる表の句意と同時に、自分の置かれている存在の深層を模索する自覚存在を目指しているのではないか。自覚存在とは「人間が自分の存在を問題にし、自己を失っているような状態から脱して、真に自己であろうと努力するあり方をいう」(日本国語大辞典)

 

元来俳句は短さ故に作品が作者の意図しないメタファやシンボルになっている。自分も含めて凡庸な俳人はその点をあまり意識しないで作句しているが、西川は意図的に創作しているのではないか。その志向こそがサーチライトなのだろう。

 

枯園の四隅投光器が定む

陽炎へるまで試聴器を再生す

 

投光器や試聴器を通して、今、此処を明確にしようとする。即刻眼前である。しかし、西川の抱く存在への漠然とした不安は否定できない。

 

本当に薄羽蜉蝣なのですか

目隠しの布を引かれて青き踏む

非正規は非正規父となる冬も

 

現実の不安が「なのですか」という疑問形や、「目隠し」「非正規」などの言葉で表現されている。

 

未来明るし未来明るし葱洗ふ

どうしても影の整ふ雛かな

 

「明るし」の反復が却って不安を煽り、整然と並べられた雛のどうしても整ってしまう影に存在のもつ本質的な不安が詠まれている。

 

 堅苦しい読みばかりしてきたが「子連れ句会」を運営する西川らしく句集には子どもを詠んだ句を多く掲載している。その中から一句。

 

吾子褒める雪降る前に目一杯

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