俳句とからだ 178 DNAとワクチン
連載 俳句と“からだ” 178
三島広志(愛知県)
DNAとワクチン
COVID-19(新型コロナウイルス)が蔓延して一年半が経過した。期待されたワクチンが日本国内でも接種されつつある。しかしワクチンに対する不安や様々な憶測も飛び交っている。そこでワクチンに関してPubMedという生命・医学論文検索サイトで調べてみた。目を引いたのが以下の論文である。
COVID-19 mRNA Vaccines Are Generally Safe in the Short Term: A Vaccine Vigilance Real-World Study Says.(Frontiers in immunology. 2021)
「COVID-19 mRNAワクチンは一般的に短期的に安全」という表題だ。結論は「COVID-19 mRNAワクチンは、一般的に非重篤な局所または全身反応であった。アレルギー経験はアナフィラキシーの危険因子でありさらなる評価と監視が必要」とある。論文は7名の中国人専門家によるもので2020年12月までに米国で接種された180万回以上の結果に基づいている。
免疫、ワクチン、DNA、RNAそしてmRNAについて復習してみよう。免疫とは自己と非自己を認識し自己(身体)を病原体などの非自己(抗原)から防衛する働きだ。抗原に対抗する抗体を作成し、将来に備えて記憶する。ワクチンは病原体を無毒化・弱毒化した抗原で体内の抗体産生を促し、感染症に対する免疫を人工的に獲得する。DNAは生命を維持するための「設計図」であり、主に細胞の核の中に存在し遺伝情報の蓄積・保存を担う。対してRNAは細胞内にありDNAの情報を転写し、タンパク質の合成(翻訳)を行う。つまりDNAは重要な遺伝情報が記録された原本で常に核という金庫に保管されている。必要な情報だけコピーして持ち出されたものがRNAである。話題のmRNA(messenger RNA)はRNAの一つでDNAからコピーした遺伝情報に従ってタンパク質を合成(翻訳)し、役目を終えるとすぐに分解される。用済みのコピー用紙がシュレッダーに掛けられることと同じである。したがってRNAは破壊されてもDNA(原本)は守られる。
今回二種類のワクチンが開発されている。一つは無毒化した別のウイルスの中にCOVID-19の表面に突き出た角のDNAを入れたウイルスベクターワクチン。もう一つはmRNAワクチン。合成した角のRNAを細胞に注入する。するとRNAはmRNAとして機能し抗体を作る。抗体は自己を傷つけることなく非自己(病原体)を特定し破壊する。mRNAワクチンは理論上DNAを変質させないため安全性が高いという。皆がワクチンを接種すると個人免疫と同時に集団免疫も獲得できる。人類という生命共同体の維持存続には不可避のことだ。
自己非自己何もて分かつ半夏生 三島広志
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