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2021年5月21日 (金)

俳句とからだ 166 きずな

連載俳句と“からだ” 166

 

愛知 三島広志

 

きずな

 コロナ禍の中、社会的繋がりを促す言葉として「きずな」がしばしば使われる。さかんに「きずな」と言われ出したのは、おそらく2011年の東日本大震災の頃だろう。この時は地震直後の津波、原子力発電所の爆発と想像を絶する災害となった。死者18428名、避難者47万人という被害の大きさに人々は何らかの救いを求めた。それがみんなの心を結びつける「きずな」という共通語になった。多くの人々の助け合いを励まし、促す目的で用いられたような気がする。

 

酒断って知る桎梏のごとき夜長

 楠本憲吉

 

しかし「きずな」からは助け合おう支え合おうという思いこそ伝わるが、某かの違和感を禁じ得ない。そこで改めて広辞苑第七版で「きずな」を調べてみた。

きずな【絆】

①馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱。②断つにしのびない恩愛。離れがたい情実

ほだし【絆し】

①馬の脚などをつなぐなわ。②足かせや手かせ。③自由を束縛するもの。

 

「きずな」はもともと馬の足をつなぎとめる綱であり、歴史的仮名遣いでは「きづな」と書いた。動物に科された桎梏である。道理で「きずなが深まる」という表現に違和感を覚えたはずだ。「きずなが強まる」が適切だろうか。いずれにしても「きずな(きづな)」には人心を束ねるある種の圧力を感じる。

 

束ねるといえば、ある音楽家からファゴット(fagotto伊 bassoon英)という楽器は薪の束という意味だと聞いたことがある。長い楽器なので仕舞うときは分解して薪のように束ねるかららしい。彼はこの語はファシズム(fasicismo)と語源を同じくするとも教えてくれた。語源はラテン語のfascesで、斧の周囲に木の棒を束ねて権力や団結を表し、古代ローマでは儀式に用いられた。第二次世界大戦中に存在したファシズム政権のイタリア社会共和国の国章には、現在のイタリア国旗と同様の赤白緑の地に、結束や団結を象徴するfascesが描かれていた。

 

戦国武将毛利元就に三本の矢を示して子ども達を諭した逸話がある。この話は中国の西秦録やモンゴル民話、イソップ寓話にもあるが、元就の話は矢を束ねると強くなるように兄弟仲良く結束しろという美談とされている。これが権力の側から命じられたり集団圧力となったりすると不気味だ。群衆は予期せぬ方へ結束や団結を強いられてしまう。

「きずな(きづな)」に対する違和感がどうしても拭えないのはこうした諸々の理由からなのだろう。

 

寒い鍵束おのおの持ちて鳥の群

栗林千津

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