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2020年7月 2日 (木)

俳句とからだ 162 四季と漢方

連載俳句と“からだ” 162

 

愛知 三島広志

 

四季と漢方

 本日は立春を数日過ぎた二月十日である。皮肉なことに名古屋は今日がこの冬で最も寒く、午前中初雪がちらついた。暦では立春・立夏・立秋・立冬をまとめて四立という。これらは四季の始まりを表す。さらにその中間点が冬至・夏至・春分・秋分で、それらをまとめて二至二分と呼ぶ。四立と二至二分を合わせると八節となり、さらに細分化されて二十四節気七十二候となる。太陽太陰暦では暦と季節に齟齬が生じないよう二十四節気を定めておりその基点となるのが冬至である。地球の地軸は23.4度傾いたまま太陽を回っている。地軸の傾きによる太陽光入射角の差が四季を生む。地軸が太陽方向に傾いている(北極が太陽を向く)と夏至、その逆が冬至となる。

 

立春の星の出揃ふ海の上   岡本眸

 

 日本は緯度により四季がほぼ四等分となる。夏と冬では気温に大差があるため古来生活様式を順応させてきた。四季と調和を取ることで健康に暮らす思想と実践が漢方医療である。人類が火を得た時から寒さを凌ぐ術は身につけた。しかし暑さを調整する冷房の一般化はここ半世紀のことだ。そこで日本の伝統家屋は夏向きに出来ている。床を高くして風を通し、天井も空気の循環をよくして夏の暑さや湿気対策とした。打水や簾、風鈴などの工夫もした。しかし今日の冷房のように自然に対抗して室温を下げることは不可能だった。自然の前に無力な人々は四季に身体を和することで生き抜いてきた。その思想のひとつが前述した中国発祥の漢方医療だ。祖先はこの思想を日本風にアレンジしながら養生のための生活様式を考えてきたのだ。

 

 漢方とはその名の通り漢(中国)から朝鮮半島を経由して伝来した医療だ。仏教とほぼ同じ頃日本に伝わり、平城京(701)では医、鍼、按摩、薬等が役職として大宝律令(養老令)の医疾令に記されている。その思想の根本は天人合一であり、治未病である。天人合一は天(環境)と人(身体)を調和させるという意味だ。古典には治未病(予防)するための四季折々の過ごし方も書かれている。「春 万物発生、遅寝早起早朝散歩、意欲発揚。 繁栄華美、万物花咲実、早起、愉快不怒気。 成熟結実、早寝早起、平静保持。 陽気潜伏、結氷凍裂、早寝遅起 日照起床、意思潜隠、不汗守陽。」 

『黄帝内経』「素問:四気調神大論篇」

 

古典には四季により天地の気の巡りが変化するので、それに合わせて生活様式や感情を制御するように示されている。自然の道を外れると病気になるというのだ。自然随順の思想こそが漢方の根本であり、今日のように文明の利器による環境への働きかけは不可能だった時代の知恵だ。そしてその神髄は今日でも活用可能だろう。

 

立秋の紺落ち付くや伊予絣  夏目漱石

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