俳句とからだ 163 The War of the Worlds
連載俳句と“からだ” 163
愛知 三島広志
The War of the Worlds
「The War of the Worlds」(1898)は英国人作家H・G・ウェルズ(1866-1946)の名作。邦題は『宇宙戦争』である。何度も映画化されており誰もが知っている作品だろう。何よりタコの姿をした火星人のイメージを定着させたのがこの作品だ。ウェルズはフランスの小説家ジュール・ベルヌ(1828-1905)と比肩されるSF作家である。ベルヌは『月世界旅行』『海底二万里』「八十日間世界一周』などで知られる。対してウェルズは『タイム・マシン』や『透明人間』が有名である。ベルヌは科学に忠実であり、ウェルズは思想を述べるために科学的誤謬を恐れなかったとされている。
邦題『宇宙戦争』の原題は「The War of the Worlds」であり、直訳すると世界と世界の間の戦争となる。宇宙は出てこない。これは地球人類世界と火星人類世界の戦争ということで、このタイトルにもウェルズの思想が感じ取れる。
秋刀魚焼く真上あかるき火星かな
仙田洋子
今、何故にこの作品を取り上げたのか。それは新型コロナウイルスで騒然とし、また規制により深閑とした社会状況に由来する。この作品の結末をご記憶だろうか。移動手段はまだ馬車が主流という地球へロケットで征服に来る火星人。遙かに進んだ科学技術を駆使する獰猛な火星人から人類を護ったのは意外な事実だった。暴れ回っていた火星人が卒然と死に絶える。
「腐敗菌と、バクテリヤによる病のために、 生命を失っていた。かれらの肉体は、これらの細菌にたいして、抗性をそなえていなかった。(H・G・ウェルズ/宇野利泰訳)」
『宇宙戦争』が発表されたのは1898年。細菌は1676年、オランダ人レーウェンフックによって顕微鏡で発見。微生物の存在が明らかにされた。さらに細菌感染により病気に罹患することが分かり細菌学が生まれたのは1876年、ドイツ人学者コッホの炭疽菌発見による。『宇宙戦争』が世に出る22年前のことだ。ウェルズは当時の最新の医学を用いてこのストーリーを展開し、どんでん返し的結末を描いたのだ。
今回の新型コロナウイルス騒動で中学時代に読んだSF小説が急に想い出され読み返した。かなりリアルに記憶しており驚いた次第。しかし専門家の意見では異星人の体内で地球のバクテリアなどが簡単に増殖はできないようである。
ウイルスは細菌とは異なり1935年、電子顕微鏡で可視化された。ウイルスは細菌と異なり組織内に器官を持たず自己増殖が出来ないため、他の生物に入り遺伝子を複製する。そこで非細胞性生物とか非生物と呼ばれる。当然、H・G・ウェルズはウイルスの存在を知らない。
月明や沖にかゝれるコレラ船
日野草城
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