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2020年1月22日 (水)

連載俳句と“からだ” 143

連載俳句と“からだ” 143
愛知 三島広志
縁・馬場駿吉先生
 近所の居酒屋で驚くべき縁を得た。紹
介されたのは耳鼻科の医師。しかし偶然
にも馬場駿吉先生(以下敬称略)のご子息
だった。馬場駿吉は名古屋市立大学名誉
教授、元名古屋市立大学病院院長、耳介
欠損再建術の権威であると同時に俳人、
現代美術評論家。愛知県立芸術大学客員
教授で名古屋ボストン美術館の館長。滝
口修平、武満徹、土方巽、寺山修司、荒
川修作、三木富雄などと親交を結んだ名
古屋をはみ出した巨大な文化人である。
 二十年数前、第一回藍生新人賞を受け
た私はその後一年間藍生誌上に「現代の
俳句」という連載を任された。その九回
目に〈薔薇までの距離〉としてとりあげ
たのが馬場駿吉の句集『夢中夢』だった
。「馬場駿吉の第三句集「夢中夢」は刺
激的である。俳句という短い定型詩の可
能性を伝統を断ったところで見事に書き
切ってあるという点で実に刺激的なので
ある」と些かの興奮をもって書き始めて
いる。この句集の存在を教えてくれたの
は当時新聞に舞台芸術の評論を書いてい
たS女史だった。彼女とは仕事の関係の
知り合いであった。これが馬場駿吉との
二番目の縁。最初の縁は馬場駿吉によっ
て舌がんの手術を受け、その後二十年以
上長らえた住職だった。折あるごとに命
の恩人として医師へ感謝の意を述べてい
た。これが馬場駿吉を知った最初の縁。
無論そのご高名はそれ以前から知ってい
た。
 居酒屋との縁でご子息を通じて馬場駿
吉から著書『意味の彼方へ――荒川修作
に寄り添って』を頂いた。荒川は名古屋
出身の前衛芸術家、養老天命反転地で知
られる。馬場は荒川の作品は「観る者に
“考える”という行為をいや応なく要求
してくる」と解く。それは彼の芸術観が
「現実に眼に映っている存在物のあらゆ
る属性をはぎとって、名付けられた以前
の状態にもどしてしまう思考のモデルを
つくること」からだという。そこから自
らも「物と物との関係あるいはその衝突
に立ち合うことによって得られる詩的体
を、極めて短い定型の中で言いとめよう
とする俳句というものの存在について考
え始めていた」と説く。荒川の芸術は「
作品の背景についての理解を求めてはい
ない。作品を体験した人が、以前の自分
から少しでも変化したと実感してくれれ

ばそれでいい」と極めて身体的だ。
彼の創案による養老天命反転地は重力
に支配された地球上に住む我々の身体に
築かれた垂直に対する安定した感覚や生
理機能を破壊し「一時的には身体の平衡
調節や空間認識がおかしく」なるという
。これはまさに目眩であり、馬場の専門
とする耳鼻科の領域なのだ。これもまた
縁と呼べるのではないか。
黄砂降る街に無影の詐欺師たち 
馬場駿吉

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