連載俳句と“からだ” 144
連載俳句と“からだ” 144
愛知 三島広志
五十句
藍生俳句会(黒田杏子主宰)の会員今
井豊と中岡毅雄が共同代表として本年七
月俳句季刊誌「いぶき」を創刊した。「
志を高く、こころを深く」をモットーに
俳句と真摯に向かい合う仲間を募ってい
る。両氏は若いときから俳句界で活躍さ
れ、特に坪内稔典の「現代俳句
」(1976~1985)で知られていた。私も
末席にいて二人を仰ぎ見ていたが「藍生
」(1990~)に創刊から一年遅れて参加
したとき二人も参加しており意外なこと
と驚いた。彼らは坪内創刊の「船団」で
先鋭的な活動をすると思っていたからだ
。それから三十年近い歳月を経て今年つ
いに満を持しての創刊となった。誠に喜
ばしい。
いつからを夕空といふ桐の花 広志
私も「いぶき」に参加したが編集部は
何を勘違いしたのか創刊号に五十句を寄
稿しろという。編集長の滝川直広から手
書きの手紙が届き、大型企画として毎号
一人五十句を掲載しそれを何人かで論評
する、その第一回目を三島にお願いした
いというのだ。これでは華々しい「いぶ
き」丸の出帆も程なく座礁してしまうと
思い、本当に自分でいいのか滝川編集長
に確認した。しかし氏の返事は俳句と真
摯に向き合っている人が真剣に選んだ五
十句が欲しい、有名無名は関係ないとい
うものだった。結局氏の熱意に引き受け
ることにした。
紫木蓮個を問ひをれば灯さるる 同
改めて過去の句に対面してみると詠ん
だ吟行地や連衆の顔や声、その時の思い
などがまざまざと想起される。また俳句
のみならず当時の生活や仕事の状況など
、芭蕉の櫻の句ではないがさまざまのこ
とを想い出す。例えば「裸木は天に絡ま
る根の如し」は初めて吟行に参加した二
十代半ばの作。「年輪」主宰橋本鶏二に
同行したときのものだ。若造の作にエー
ルを込めて激賞していただいたことが鮮
明な映像となって想い出され身震いする
。
寒星や魂の着る人の肌 同
詠んだとき、あるいは発表したときは
それなりに佳いと思った句が意外に詰ま
らなく感じられることも多くあった。反
対に時空を経て客観的に鑑賞出来るため
別の感慨を抱く句もあった。過去にも何
度か十句二十句を依頼されたことはある
がさすがに五十ともなると重みが異なる
。しかも四十年以上遡行するので人生の
振り返りともなる。特に若いときの俳句
を読み返すとその調べや句意が身体化し
て甦ることに驚く。
こうした感慨の深奥には当然創刊号へ
の意気込みも加味されている。よい機会
を与えられたことに深謝したい。
人ひとりこの世をはなれ石蕗の花 同
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