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2020年1月22日 (水)

連載俳句と“からだ” 130

連載俳句と“からだ” 130
愛知 三島広志
存在者 金子兜太
 手元に『存在者 金子兜太』(藤原書
店)という分厚い本がある。『証言・昭
和の俳句』(角川選書)や『語る 兜太
』(岩波書店)などに続く黒田杏子によ
る編著だ。
 朝光の山百合生きるとは死なぬこと
 金子兜太の存在は現代社会において俳
壇を超え広く分厚く影響している。現今
の複雑な国内外情勢にあって兜太がいる
ことの安定感、その存在は頼もしい。そ
の象徴が「アベ政治を許さない」という
反政府デモを行う人たちが手にしている
揮毫だろう。金子兜太の筆によるものが
世間に流布している。これは彼の過酷な
戦争体験が書かせたものだ。二度とあの
過ちを犯してはいけないという強い信念
と戦後の労使活動に専念した社会への生
涯一環した正義感の表れだ。
ふるさと秩父母とおおかみの声の夜と
『俳句』2017年1月号には先の「ふる
さと」を含む七句の後に「物騒だ、と庭
に出て、落着かない冬空を眺めて、妙に
地球全体の動向に胸騒ぎしていることが
多くなった。(中略)安定した平和が欲
しい」と述べている。まさに兜太は兜太
を生きているのだ。
 
また作家のいとうせいこうとともに選
を行っている『中日新聞』『東京新聞』
の「平和の俳句」も彼の発案に基づく。
 戦さあるなと逃げ水を追い野を辿る
 
 兜太の存在は今日社会にあって揺るが
ない風鎮のようである。兜太の存在感が
世の中に受け入れられているということ
は如何にその個性が今日社会にとって重
要かを示している。
 曼珠沙華どれも腹出し秩父の子
 霧の村石を投らば父母散らん
 彼の重厚な存在感は本人も語っている
ように故郷秩父の風土、苛烈な戦争体験
、弱者への共感から始めた労使闘争と職
場での不遇、そして二度と戦はすまいと
いう恒久平和への強い思いが多くの人を
揺り動かしているからだ。さらにその人
生の奥で通奏低音のように鳴り響かせた

俳句への情熱。
 水脈の果炎天の墓碑を置きて去る
 銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく
 暗黒や関東平野に火事一つ
 編集者黒田杏子はこの本の壮大な宇宙
の中の所々に現れて道標のようにささや
かなコメントを述べている。しかしその
謙虚さ故、彼女の存在感もまた兜太同様
圧倒的である。
 (掲句は全て金子兜太先生の作品)

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