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2020年1月22日 (水)

連載俳句と“からだ” 133

連載俳句と“からだ” 133
愛知 三島広志

 仕事を終え街へ出ると風はすっかり秋
となっていた。寂寥感をともなう風に吹
かれるといつも若山牧水の短歌を思い出
す。牧水二十代の作品だ。
 白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はし
づかに飲むべかりけり
 おそらく全国で多くの酒飲みがこの歌
を脳裏に酒をしみじみ嗜んでいることだ
ろう。しかし、酒が「歯にしみとほる」
という表現は単なる感傷ではなく、現実
には心の痛みを受け止めながら痛飲して
いると読める。したがって「しづかに飲
むべかりけり」と自らを戒めているのだ
。牧水は酒で体を病んだとされ四十三歳
という短い生涯を終えている。
 酒の評価は毀誉褒貶相半ばする。「百
薬の長」とも「きちがい水」とも言われ
る。知り合いの化学者は酒即ちアルコー
ルを毒と一蹴する。本人は毎晩ビール大
瓶4本、赤ワイン1瓶呑むという大酒飲
みにも関わらずだ。確かに人類は古来か
らアルコールを衛生管理や食品保存に利
用してきた。また、飲料としても親しん
でもきた。アルコールが利用できとは量
のコントロールが上手に出来ているとい
うことだ。それを多量に呑めば体に悪い
毒となる。そもそもアルコールが殺菌に
用いられるということは生物を殺傷する
能力があるということだ。その機序は以
下のようだ。細胞膜の脂質を溶かし、細
胞内のタンパク質を変性させる。さらに
蒸発するとき細胞内の液体成分も一緒に
蒸発する。医学的には70%に希釈したと
き最も殺菌作用が強いと実証されている

 では何故呑むと酔うのか。エチルアル
コールが脳の高次機能を抑制する。そこ
でストレスが抑制され心地よくなるのだ
。しかし、同時にアルコール代謝の副産
物アセトアルデヒドが生成され嘔吐など
の不快感を生じ、二日酔いの原因ともな
る。
 「酒は百薬の長」と呼ばれる理由はな
んだろう。これは人類が古来からアルコ
ールの抽出作用を利用していたことによ
る。医の旧字「醫」には矢と酒が見られ
る。これは医療が矢による瀉血と薬酒で
行われていたことを示す。つまり酒とは

薬草をアルコール抽出した薬酒のことな
のだ。今日でも世界中で薬用酒が市販さ
れている。またジンというカクテルに用
いられるスピリッツも本来薬酒であり、
有名なジン・トニックというカクテルの
トニックは活力を与えるという意味だ。
 人類はアルコールを上手に利用してき
た。飲酒も味や香りを嗜むという付き合
い方をすれば体を傷めたりきちがい水に
ならずにすむだろう。難しいが(汗)。
 酒好きに酒の佳句なしどぜう鍋
 秋元不死男

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