俳句とからだ 117
連載俳句と“からだ” 117
愛知 三島広志
しなやかと堅牢
熊本県で激烈な地震があり、多くの家屋が倒壊してしまった。それは神戸の地震と同じく活断層による直下型地震であった。神戸の地震の後、倒壊した家屋の多くが日本的な建築であったため、その後外来の建築法が注目されることになる。
日本の伝統的な建築法は木造軸組構法である。さらにそれは伝統工法と在来工法に分類できる。伝統工法は柱と桁で組まれる構造で原点は竪穴式住居に繋がるとされる。その特徴は柔構造で揺れを粘りで吸収することだ。それに対して在来工法は昭和に入って考案された技法で、伝統工法をさらに筋交いなどで補強し揺れを木組みの粘りで吸収するのではなく堅牢に受け止める構造になっている。
すみれ踏みしなやかに行く牛の足
秋元不死男
外来の建築法で多く用いられているのは木造枠組壁構法(2×4工法)である。19世紀に北米で発展し世界に広がった建築で原型は開拓時代に遡る。壁で衝撃に対応する構造である。開拓者は自分で家を建てる必要があり、素人が建築するためのキットが存在していたようである。
今日の建築現場を見ると、日本的家屋は在来工法で大工さんが器用に柱や梁を組み上げて丁寧に建築している。それに対して今風の家は外来工法で板を釘で打ち込んで大雑把に作っているように思える。ところが地震や台風に対して外来工法が意外に強いのである。建築関係者によると外来工法は壁で頑健に受け止めるから頑丈なのだそうだ。それに対して日本家屋は技術が物を言う。匠がきちんと組み上げれば相当丈夫であるとのこと。
金剛の露ひとつぶや石の上
川端茅舎
どちらの建築法が優れているのかはこの文の主題では無い。ただこの柔と剛の存在には興味が湧く。大相撲の横綱白鵬は好調時、柔軟に相手の攻撃を吸収しながら勝利をものにする。伝統工法の様な粘りの相撲だ。大関琴奨菊は剛直に直進し一気に勝負をつける。壁で耐震する外来工法のような強さだ。ただ強い反面脆さも目立つ。
俳句には五七五という形式がある。これを堅牢な器として用いるか、しなやかに利用するか。その扱いは俳人に委ねられる。外見上は同じ俳句でも内面に柔構造を持つか堅牢な俳を目指すか。ここに俳人の俳句観が見て取れることだろう。さて次の名句は柔か剛か。
くろがねの秋の風鈴鳴りにけり
飯田蛇笏
泉への道後れゆく安けさよ
石田波郷
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