俳句とからだ 110
連載俳句と“からだ” 110
愛知 三島広志
疥癬とノーベル賞
疥癬は感染力の強い皮膚病のことである。ヒゼンダニというダニが皮膚に寄生し潜り込むことで生じる難治の感染症である。症状は激しく夜間、掻痒で苦しむことになる。痒みの原因はダニに噛まれることではなく、ダニの糞や抜け殻などによるアレルギー反応である。診断は顕微鏡下でヒゼンダニを確認することで確定するが現実にはなかなか捕捉できない。そこで腹や腋など皮膚の柔らかいところに生じる発赤、指の股などに形成されるダニの通り道である疥癬トンネル、男性陰部にできる結節などで推測する。
桜満開おのが身に皮膚いちまい
辻美奈子
特に免疫力の低下した高齢者の集まる施設や医療機関では疥癬が発生しやすい。そこで施設などでは予防に細心の注意を払っている。それでも上手の手から水が漏る様に発生することがある。以前は対処する薬が開発されていなかったので患者を隔離し、清潔を保ちながら治癒を待つしか方法が無かった。従事者自身が感染しても免疫力が強い場合、自身は発症しないため感染に気づかず伝染経路となることがある。そこで厳しい防護が求められる。防護に気を遣うため日常業務が極めて圧迫されてしまうことになる。
疥癬はノロウイルスやインフルエンザのように罹患しても死に至ることはないが伝染しやすい上に体力の低下を招き他の疾患に罹る恐れも生じるので何としても感染の拡大を納める必要がある。しかし疥癬は菌やウイルスと異なりダニという寄生虫なので抗生剤や抗ウイルス剤が奏功せず、しかも卵を産みながら代替わりして生息するため駆逐が困難なのだ。
シリウスの青眼ひたと薬喰
上田五千石
ところが1993年、イベルメクチンという特効薬が発売された。当初この薬は動物の寄生虫に対しての有効性が評価され犬のフィラリアなどに使用されてきた。その後、海外では人への安全性が認められアフリカ大陸などで多くの人の病気治癒に貢献してきた。そして遅ればせながら日本でも2006年から疥癬の薬として使用が許可されたのだ。
この薬を発見開発した人は日本人である。北里大学特別栄誉教授大村智先生。2015年度のノーベル生理学・医学賞を受賞された時の人だ。動物薬としての利益を元にアフリカの人々に無償で提供され多くの人を失明から救っていると、薬効だけでなくその人道的支援も高く評価されている。
駆けのぼる天馬に虹の橋架けよ
鷹羽狩行
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