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2014年2月12日 (水)

俳句とからだ 84

連載俳句と“からだ” 84

 

 

愛知 三島広志

 

脱皮

 ある日、昼食を摂った後、少し時間があったので公園の緑陰で時を過ごした。炎天下、影は大地に灼きついていた。見ると幹や木の葉のあちこちで蝉の抜け殻が熱風に吹かれている。おそらく午後七時頃来れば穴から出て一心不乱に地を這い、幹を駆け登る幼虫を見ることができるだろう。さらに十時頃には羽化したばかりの弱法師のような蝉に出会える。無論昼間の公園には夏を啼き過ごす蝉の声ばかりで生きた幼虫はいない。しかも暑い時間は蝉もあまり啼かない。暇だったので抜け殻のある樹の根元や草叢を探ってみた。案の定、脱皮できなかった蝉の幼虫を数個拾うことができた。脱皮途上でこと切れた無念の蝉骸もあった。

 

子を殴ちしながき一瞬天の蝉

秋元不死男

 

 蝉を含む昆虫は外骨格だ。節足動物門(甲殻綱や昆虫綱など)は外骨格、即ち皮膚が固く骨化し、内部を保護・支持すると同時に骨格として動きに寄与する。ヒトを含む脊椎動物門は内骨格だ。蝉は外骨格で幼虫として地下に三年から長い種では十七年も棲み、終齢幼虫が地上に出て羽化する。以前、蝉は一週間ほどしか生きられないと言われたがこれは飼育の困難さからの誤解で実際は一ヶ月位生きるのではないかとされている。つまり蝉は最も長生きする昆虫の一つなのだ。その終齢幼虫が脱皮した後残されているのが抜け殻となる。空蝉とか蝉退と呼ばれ漢方薬の材料になる。

 

 蝉時雨子は担送車に追ひつけず

石橋秀野

 

 外骨格は外が硬いので内部保護に優れている。人体でも脳を守る頭蓋は外骨格と同じ形態だ。骨盤も胸郭も内部を保護する。甲殻類は水圧に耐えるため外骨格は最適である。魚類の鱗も外骨格に入れる場合もある。これも水圧から身を守るためだ。

ではなぜヒトは内骨格を選んだのだろう。調べると外骨格は動きが制限されるため大型化に不向きと書かれていた。外骨格を巨大化すると付随して筋肉も大きくしなければならないが、外骨格という容器に入っているので筋肉を大きくすると必然的に内臓などの空間が占拠されてしまうのだ。

また、終に羽化できない終齢幼虫があるように脱皮は危険を伴う。しかも脱皮直後は外骨格がまだ固まらないので弱い上に飛翔もできない。その間に猫や鳥に襲われることもある。したがって安全な夕方に地上に出て、明け方までに乾かすことが必須なのだ。頑丈だから採用された外骨格もその矛盾点が内骨格へと進化の矛先を変えたのだろう。

 

空蝉のいづれも力抜かずゐる

阿部みどり女

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