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2013年7月26日 (金)

俳句とからだ 78

連載俳句と“からだ” 78

 

 

愛知 三島広志

 

暦と十二支

新年になると「今年のえとは?」「蛇(巳年)だよ」などという会話が交わされるがこれは間違いだ。どこが間違っているのか。ということで今回は暦の話。

 

暦はすでに殷の時代(紀元前17世紀頃 - 紀元前1046年)からあり、十干と十二支の組合せで作られている。十干とは甲乙丙丁戊己庚辛壬癸のことだ。訓読みではきのえ、きのと、ひのえ、ひのと、つちのえ、つちのと、かのえ、かのと、みずのえ、みずのととなる。これは五行説の木火土金水から来ている。

 

古暦とはいつよりぞ掛けしまま

後藤夜半

 

もう一方の十二支は子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥(し・ちゅう・いん・ぼう・しん・し・ご・び・しん・ゆう・じゅつ・がい)だが鼠や牛など十二獣と混同されている。本来干支とは生命消長の循環過程を示す符合であり、木火土金水や鼠牛虎などの実態とは何ら関係ない。もちろん蛇年生まれは陰険などという説明は血液型と同様、全く無意味な俗信である。

ところが興味深いことに十二獣はロシアや東欧にも伝わっており動物もほぼ同じである。その混同は既に秦代(紀元前778 - 紀元前206年)からあったようで、発見された竹簡には動物が配当されているという。符合を動物に置き換えることで親しみが湧くことは確かだろう。

 

さて冒頭の「今年のえとは?」という質問に戻る。前述したように「えと」は甲(きの)乙(きの)のような十干のことだった。木の兄(え)木の弟(と)なのだ。したがって「今年のえとは?」と聞かれたら癸(みずのと)と答えるのが正しく、巳年と答えるのは間違いなのだ。今年は癸巳の年なのだから。もっともこれでは親しみも面白みもない。

 

十二支みな闇に逃げこむ走馬灯

黒田杏子

 

知られているように暦は六十年で一周りするので数え年の六十一歳を還暦という。暦は十干と十二支を順番に組み合わせて作られている。したがって暦の最初の年は甲と子の組み合わせで甲子(きのえね)、次は乙丑(きのとうし)、丙寅(ひのえとら)。順々に組み合わせて六十番目が癸亥(みずのとい)で一巡する。つまり十干の10と十二支の12の最小公倍数が60。そこで還暦は六十年となる訳だ。ちなみに甲子の年、1924年に建造された有名な野球場が甲子園であり、甲子男さんという名の人は多くこの年に生まれている。また、明治政府確立を世界に知らしめることになった1868年の戊辰戦争は戊辰の年であった事が分る。

 

還暦のひとに涼しき青畳

白石喜久子

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