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2011年9月28日 (水)

俳句とからだ 51

連載俳句と“からだ” 51


愛知 三島広志

筋肉山脈

 鍼灸の資格は三年の専門学校か四年制大学を卒業後、国家試験に合格して取得する。学校では西洋医学の解剖学や生理学、衛生学や医事法などを履修する。当然、鍼灸の背景である東洋医学概論や鍼灸の実技および臨床も。

開業して役立つのは具体的な身体構造を対象とする解剖学だ。そもそも治療行為とはある刺激に対する好ましい反応を期待するものだ。それらは常に過渡的現象として表出する。解剖は現象を一時的に固定された構造として確認できる。即ち治療の効果判定がしやすいのだ。それは筋肉に顕著だ。

 青空のような背中に草矢射る 西村 薫

 筋肉は幾つかが山脈のように連なり力を伝導している。例えば肩を横に上げるとき、肩甲骨の上にある棘上筋が初動を作り腕が外に動き出す。次いで肩口にある三角筋に連動すると腕が水平まで上がる。さらに上部僧帽筋が作用して垂直に上がる。これらがアクセルとして働く筋肉だ。同時にブレーキとして動きに拮抗する筋肉もある。胸にある大胸筋や背中の広背筋だ。これらの力が抜けていないと腕が躯幹から離れにくい。肩を上げるための治療やトレーニングはこれらの筋群を考慮してアクセルとブレーキが滑らかに連動するようにしなければならない。

広背筋は意外なことに腰と腕をつないでいる。12ある胸椎の5番目から腰椎の一番下の5番目、さらに仙骨、腸骨稜、第9~12肋骨という名前さながらに背中を広く覆ったところから起こり上腕骨の小結節稜という肩のすぐ下の辺りに付着する。主作用は気をつけの姿勢のように腕を躯幹に張り付ける。

手が上がりにくい人がいると仮定する。そのときの治療はアクセルとして挙上しようとする三角筋や棘上筋を鍛える、あるいは痛みを和らげると同時にブレーキとなる広背筋や大胸筋を緩める必要がある。一般に病院の治療は鍛える方を重視するが鍼灸や東洋医療では広背筋や大胸筋を宥める方法も重要視する。なぜなら前述したように筋肉は独立峰ではない。山脈のように連なり、それぞれ関係しながら一定の役割を果たしているからだ。例えば背中の中心には縦に走る脊柱起立筋群がある。外側から腸肋筋、最長筋、棘筋となり、さらに頭部、頚部、胸部、腰部に分化し協働して姿勢の維持を行う。

 秋の暮山脈いづこへか帰る 山口誓子

こうした筋肉の山脈を古の人は経絡と呼んだのではないかと推測する。解剖学が極めて未発達だったからこそ、むしろ統合的な筋肉の作用に思いが至ったのではないだろうか。

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