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2011年9月28日 (水)

俳句とからだ 50

連載俳句と“からだ” 50

愛知 三島広志

腹腔の球

 躯幹のうち肋骨に覆われている部分が胸である。その裏側は背。肋骨が無いところが腹、裏は腰だ。胸と腹の境目には膜がある。横隔膜だ。腹の底にも骨盤隔膜という膜がある。横隔膜は一枚の筋板がドーム状に張っており、それが上下して呼吸運動を司る。腹の底にも膜がある。これを骨盤隔膜と呼ぶ。骨盤隔膜は一枚板の横隔膜と異なり肛門挙筋、肛門括約筋、恥骨直腸筋などから形成され骨盤内臓器の脱落を防いでいる。高齢女性を悩ます失禁や子宮脱などはここの弱体が原因となる。

 横隔膜と骨盤隔膜で作られる空間が腹腔だ。そこは古来から丹田と呼ばれて重要視されてきた。丹田とは古い神道や道教の考えで、仙人になるための霊薬仙丹を練るため気を集め練る体内の部位を指す。ここは東洋医療の気海や関元というツボの辺りで臍下丹田とか気海丹田とも称す。日本ではハラとも言われ、ハラが坐っているとか、ハラから気合を出せというのは丹田のことである。東洋古来の鍛錬はこの丹田を練ることを重要視してきた。しかしその実態は明らかではない。

 腹底に逆波起つる青嵐とは  平島一郎

 丹田はその位置からして横隔膜と骨盤隔膜で形成される球のような空間ではないかと推測する。つまり実体的な組織ではなく内圧を生み出す機能的存在だ。それは呼吸運動をする時実感できる。
腹式呼吸でも胸式呼吸でも構わない。息を深く数と横隔膜は下がる。下がると胸郭は広がりその陰圧で空気が入ってくる。同時に腹腔は横隔膜の降下によって圧迫される。つまり丹田の内圧は上がるのである。その時、意識的に骨盤隔膜を引き上げる。具体的には肛門を閉め、上に持ち上げる。尿意を強く抑える感覚だ。こうして上下の膜によって形成される腹腔の内圧はますます上がる。この内圧が腰やハラを内支えするのだ。内圧が弱ると腰椎が前弯し腰椎すべり症などになり易い。また躯幹が定まらず姿勢が不安定になる。内圧が弱いと外殻である筋肉が緊張して姿形を支えることになり、腰痛や肩こりを生み出す元となる。

 呼吸法は自律神経を安定させ、副交感神経優位のリラックスを生む効果があるが、同時に筋肉に依存しない勁さを作ってくれる。
 稽古は簡単だ。お腹を球、あるいは風船と見立ててそこに静かに息を注ぎこむのだ。すると自ずと腹式呼吸になる。その時肛門を強く締めて引き上げる。数秒の持続の後、静かに息を吐く。これを数回繰り返すのだ。こうして丹田を練ることで感情のコントロールが可能になる。簡単に切れなくなるのだ。

 丹田に力を入れて浮いて来い 飯島晴子

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