俳句とからだ 27
連載俳句と“からだ” 27
愛知 三島広志
仙骨
仙骨は脊椎の底部で骨盤を形成する骨である。
骨盤は椀状の骨格であり、その構造は仙骨、仙骨の下に付着する尾骨、仙骨の左右にある一対の寛骨の計四個で形成される。仙骨は脊椎の延長で五つの仙椎が固まって一個の仙骨となった。その名残として四対の穴があり五対の仙骨神経が出る。尾骨は三から六個の骨からなり、一対の尾骨神経が出る。仙骨神経も尾骨神経も脊髄神経の一部であり主として下肢に分布する。
寛骨は側面の腸骨、底部の坐骨、前面の恥骨に分かれるが、実際には一個の骨として結合している。寛骨はいわゆる腰骨でベルトが当たる骨。腸などの器であると同時に臼状の窪みを持ち、大腿骨と共に人体最大の関節である股関節を作る。恥骨は下腹部にあって左右の骨が結合して内臓を保護している。出産時には結合が緩んで産道の拡大を阻害しないようになっている。坐骨は腰掛けたとき床に当たり、体を支える骨である。
骨盤は構造上、内臓を保護し、かつ躯幹の底部にあって受け皿となる。また股関節を形成し下肢へ連絡する。妊婦では赤ん坊の揺り籠にもなる。
せみしぐれ身体のなかの対の骨 大西泰世
仙骨と歩行
骨盤、特に仙骨は身体活動上特異な存在である。歩行を例にとって説明しよう。立って実際に身体を内感しながら読んで欲しい。
歩行運動を分解すると、まず仙骨が微妙に動いて重力を右脚に分配する。その時、重心も右脚に移る。右脚は支持脚となり、大地と躯幹を結ぶ。同時に、左脚は解放されて遊脚となる。重力線が崩れ身体が前方に倒れ出す。遊脚である左脚は振り子のように前に振り出される。踵から接地すると即時に重心が左脚に乗り支持脚となる。
接地した衝撃は左脚を通じて仙骨に伝わる。仙骨で力がスイッチして右の腰から背中、右腕に抜ける。このうねるような動きが左右交互に身体を貫いている。これが歩行の原理であり仙骨はその中心にあって力を分配しているのだ。
文章で読むと難しいが脱力してゆっくり歩いてみると実感できるはずだ。身体とじっくり対話することが肝要。注意すべきは最近流行している背筋を伸ばして両手を力強く振る歩行をしないこと。その歩行は重力という自然を無視した強引な動作で身体に無理を生じる。筋骨を鍛える意味では有用だが、自然体歩行ではない。こうした動作は精神による身体の隷属とも言う。筋骨を鍛えるということはそれが不自然で身体に無理を強いていることに他ならない。
分け入っても分け入っても青い山 種田山頭火
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