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2011年8月20日 (土)

游氣風信 No.165 2003. 9. 1

大腸のはなし

 今月は大腸の勉強です。

 大腸は排泄に関わるだけの地味で、哀れにも尾篭な臓器ですが、胃と並んで体感・自覚しやすい器官です。つまり「知覚」に深く関わるという点でとても精神的な臓器なのです。

フロイトは小児性欲の発達段階に肛門期を想定し、排泄などの肛門の刺激に快感を持つ時期として精神発達途上の深い意味があると説明しています。その前の一歳半位までを口唇期として母親の乳首を吸う口唇による快感感受の年代とし、肛門期はそれに続く年齢なのです。口唇は消化管の入り口であり、肛門は大腸の終末で消化管の出口ですから奇妙な符合と言えるでしょう。

胃も大腸も食べ物摂取に深く関与する臓器です。それらが人間の成長発達に関わる重要な意味を持つわけですから今月勉強する大腸も精神的に深い意味がある臓器と想像できます。

大腸はどのようなときに自覚されるでしょうか。たとえば女性の多くが苦しむと言われる便秘。これは消化管の終末の通りが悪くなって排泄に困難をきたすものです。排泄のことを「お通じ」というのはまさに言い得て妙な表現です。

 逆に排泄過剰な下痢もあります。これも別の意味で困ったもので、外出などに困難をきたします。

 大腸は小腸から送られてきた食物の成れの果ての滓から水分を吸収し、固形の便を形成して貯蔵、排出する役割をもっています。また、大量の腸内細菌がいて、残滓の分解や生命活動に重要な物質の生成など色々な働きをしてくれています。これはちょうど畑の土の中に住むミミズや土壌菌と非常に似ています。

 大腸の仕事は一言で言えば排泄です。

 排泄は、野生動物であれば便が貯まればそのつどTPOを問わず出せばいいのですが、社会生活を営む人間はそうはいきません。

 そこで小さいときからおしっこやうんちの躾を受けます。いくらうんちをしたくても我慢してしかるべき時間や場所で排泄する必要があるからです。

 余談ですが、人に飼われる犬や猫にも同様の躾が要求されます。ですから躾のできないペットは疎んじられます。もっともこれは犬猫に限られる能力でしょう。残念ながらうちの子桜インコは躾ができません。やりたい放題に排泄します。鳥は空を飛ぶと言う習性上、絶えず身体を軽くする必要があるからだという説もありますから、躾できないのも仕方ないでしょう。

 話を戻します。内臓の諸機能は意識的に操作できない、つまり不随意の自律神経支配によっています(詳しくは先月号)。消化吸収活動もご多分に漏れず自律神経支配のうちに自動的に行われます。そかしそれは食物を嚥下して便を貯めるところまでで、最終的な排泄は自律神経支配から独立し、意識による調整の世界となります。ここに関与するのが躾なのです。こうしたところに大腸が精神的影響の深い臓器である理由が見て取れます。

 先述したように大腸が具合の悪いとき、一番自覚される症状は下痢と便秘でしょう。

 下痢は便から水分が十分に吸収されないまま強制的に排出されるものです。排泄過剰な状態で非常に困ったものですが、時には人体に有害な物質(あるいは間接的に精神的ストレスも)を素早く排出しようという有用な作用でもありますから一概に嫌う必要はありません。むやみに止瀉薬を用いるのは危険です。下痢を止めたがために大勢の方が亡くなってしまった食中毒もありました。

反対に便が出なくなるのが便秘です。大腸によって水分が吸収され便が硬くなると便秘になります。その他、大腸が緊張しすぎて通り道が狭くなる場合(痙攣性便秘)や腸がゆるんで働かなくなって押し出す力が弱くなる場合(弛緩性便秘)も便秘になります。さらに前述したように、躾という条件反射で排便はコントロールされていますから、便意を無視していると腸が怠けて便秘になります。これは習慣性便秘といいます。

 腫瘍による圧迫で大腸が塞がれて便秘(器質的便秘)になったり、逆に主要が排泄中枢を刺激することで下痢になることもあります。

 便秘や下痢の反復は癌を疑えと言うのはそういう理由です。

 繰り返しますが、大腸の役割は極めて単純です。便の形成と貯蔵、排泄、そして水分の吸収。しかし先ほど述べたように、自律神経支配から解放された、つまり意識と無意識の間にある器官なので便秘や下痢の奥に複雑な心理的要素が絡んできます。

 最近若い人に増えている過敏性大腸症候群は精神的な負荷が過重になると発病しやすいといいます。また誰でも緊張したら下痢(神経性下痢)をするという経験はおありのことと思います。これはある種のストレス発散です。限度を越えると病気になります。

『広辞苑』

過敏性大腸症候群

「ストレスや情緒不安定などに伴い腸管の機能異常を来す心身症の一。不定の腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘などの症状を呈するが、器質的病変を認めない。」

 では続けて大腸はいかなる器官か勉強していきましょう。

『大辞林』

だいちょう【大腸】

「小腸に続き肛門に終わる消化管。盲腸・結腸・直腸の三部分から成り、小腸よりも短く太い。水分を吸収し、糞を形成する。」

 大腸がいくつかのパーツに分類されていることは案外知られていません。右下腹の盲腸から右わき腹にかけて上行する部分を上行結腸、そこから臍の辺りを横に左わき腹まで走る部分を横行結腸、左わき腹から下降するのを下行結腸、その後左下腹部でSの字のように複雑に走るところをS字結腸、下腹中央で肛門に繋がるところを直腸といいます。前から見ると「の」の字のように右回りになります。

『新版人体解剖学入門』(三井但夫)創元医学新書

大腸

 「長さ1.5メートルを有する太い消化管の終部で、ここでは主として水分を吸収する力があり、なお植物線維など一部の食餌の消化を行う。大腸を盲腸、結腸、直腸の三部に分ける。

 盲腸は非常に太く短い管で、長さは数センチにすぎない。位置は腹部の右下で回腸に続く部である。盲腸の後内方から虫垂(虫様突起)が垂れている。その長さは6~7センチである。虫垂の炎症をしばしば盲腸炎と誤って言う人がある。虫垂炎または虫様突起炎と言うのが正しい。

 盲腸の続きは結腸で、その走り方によって上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸と呼び、骨盤に入って直腸となり、肛門で終わる。結腸の結とは、そこで便が水分を失い、固結して糞となる意である。」

 便が結するから結腸というのは初めて知りました。

盲腸には腸内細菌がいて植物の硬いセルロースなどを分解発酵してくれます。ですから草食動物の盲腸はとても長くなっています。

小腸の後半部回腸と大腸の始まりの盲腸の境には回盲弁という弁があり、小腸から大腸への食べ物の残滓の送り込みを調整しています。

『新版人体解剖学入門』(三井但夫)創元医学新書

大腸からの吸収

 「大腸では主として水が吸収される。したがって大腸の内容物はだんだん硬くなり、糞を形成する。たとえば水400グラムのうち、小腸吸収の分は250グラム、大腸吸収の分は150グラムの割合である。それでも糞の25パーセントは水である。

 糞が下行結腸、S状結腸などにたまり、一定の圧力が生じて便意をもよおすと、反射によって肛門括約筋が開き、結腸、直腸の蠕動が生じて、これを、肛門から体外に排出する。糞便の悪臭は、蛋白質が分解して生じたインドール、スカトールなどのガスの臭気である。」

 まあ、大腸は化学工場のようなものですからおならは排気ガスそのものでしょう。

 次に漢方の大腸を調べます。

『鍼灸医学辞典』(医道の日本社)

・・・・・・・・・・・・・・・・?

 (手持ちのこの辞典は昭和60年11月1日に初版発行で平成3年4月15日に第3版増補改訂されたものです。大腸の項目は西洋医学の大腸について書かれているだけで、漢方理論の大腸については書かれていません。明らかなミスか、あるいは漢方における大腸は西洋医学の考えとあまり差がないからなのかよく分かりません。

 漢方でも大腸は小腸から送られた食べ物のかすを体外へ排出するものと理解されているからです。)

 漢方的な解釈は次の増永論を参考にしてください。

『スジとツボの健康法』(増永静人)潮文社

 「肺を助けて実質的な栄養の分解排出に関係しており、その働きは気の停滞をなくすことになるので、逆に「もの言わぬは腹ふくるる思い」となっては大腸に影響がありますし、またガスの放出はその気分を解除する意味もあります。 大腸の働きが停滞すると、気分の発散ができないとか深呼吸の不足、あるいはこれを促進する運動の不足、そして便秘や冷えからくるのぼせなどにも関係してきます。症状としては、積極性がなくなり、運動不足による消化排泄不良、鼻からのど、扁桃、気管といった外呼吸器に関係した疾患、下腹の冷え、悪感、下痢といったこともあります。皮膚に艶がなくなり、かゆく、化膿しやすくなり、痔や眼の充血、上枝の痛みや運動制限、あるいは腰の抜けたような感じ、腰痛などに関係してきます。」

 漢方では大腸は直接大腸に関与するだけでなく、歯茎の問題や皮膚の病気にも関わるとします。これは後述します。

手の陽明大腸経

 人差し指から腕を上り肩から頚を経て鼻まで

『鍼灸医学辞典』(医道の日本社)

手の陽明大腸経

 「上枝の前側から頸部を経て顔面をめぐる経脈で、所属する経穴は20穴である。直接関与する臓腑は、大腸、肺であるが、皮膚とかかわりをもつことを特長とする。経脈の性質は、気血ともに多い。その流注(ながれ)は、肺経の別れが示指の末端にきて、ここから起こって、手の外面前側をとおって肩から首のうしろまで行き、鎖骨上窩にのぼり、1つは分かれて頚から下歯の中へ入り、再び出てきて鼻孔のそばまで達し、1つは胸に入って肺をまとい、横隔膜を下って大腸に帰属する。この経脈は、便秘、下痢などの大腸本来の症状に対しては、三間、合谷、温溜など数穴に過ぎないが、眼の疾患、顔面まひ、三叉神経痛などの顔の疾患、歯痛、風邪などの呼吸器疾患、じん麻疹や腫物など皮膚病によく用いられる。」

 この経絡は非常に過敏なスジで、押さえると痛いツボがたくさんあります。
武術で相手を取り押さえる急所が多いのもこのスジの特徴です。

 治療では肺や大腸の問題以外に目や歯茎の痛み、腫れ、皮膚のトラブルに多用されます。また30年位前巷間を驚かせた中国の鍼麻酔にもこのスジが利用されます。

後記

この勉強も残すところ腎と膀胱の二つです。また八月からは恩師増永静人先生の初心者向けの著書を数名の塾生と読み解くことを始めました。先生の十冊以上のご著書が次第に絶版となる事実を再確認し、これではいけないなと強く感じたからです。

その趣意書めいたことを書きました。以下に紹介します。興味のある方は参加してください。

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