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2011年8月20日 (土)

游氣風信 No.162 2003. 6. 1

脾のはなし

今年は少し真面目に勉強しようと定めました。その成果としての『游氣風信』も早6月号になりました。専門的で難しい内容で読者にはご苦労をかけていますが、もうしばらくはこのままの状態で進んでいきます。

勉強内容は身体調整に深く関わる東洋医療の経絡と西洋医学の内臓を共に学ぶというものでした。

今までに肝・胆・心(心包)・小腸(三焦)とまとめてきました。出来ばえとしては残念ながら生来のずぼらな性質ということもあって、何れも整理が不十分で不統一なテキストに終わっています。しかしそこはご寛恕願うとして、こ
のまま先を急ぎましょう。

内臓を取り上げる順序は五行説に基づいて決めたとは当初に申し上げた通りです。その理由は五行説を信奉しているからではなく、全くの便宜上のものであるとも述べました。

途中、西洋医学には無い概念の心包や三焦が出てきて困惑されたことと思います。説明する当方も大変難渋しました。

ここで今までを振り返り、漢方の考えを極力単純化して整理してみましょう。


肝臓の機能(小腸で吸収された物質の解毒)と筋肉の作用や血液の貯蔵に関わる。情動としては怒りに影響され、かつ影響を与える。


肝臓の補佐と同時にいわゆる肚・胆力に関わる。経絡は肝とともに体側部を通過し、決断や迷いに関係する。関節や筋肉などの運動器を支配する。


心、精神ととらえる。外部からの情報を整理判断する中枢。みぞおちや肩甲骨の間に身体化しやすい、つまり凝りや緊張がでる。

小腸
実体のある情報の整理判断。腕組みをして沈思黙考する姿勢が心や小腸の経絡を伸展して働きを深める。

ムチ打ちや落下のように強い身体的トラウマや精神的トラウマの影響が身体化しやすい部位。

心包
心の補佐とされているが内臓としての心臓と考えられる。みぞおちから上腹部に反応がでる。前腕の緊張もこの影響。発熱のとき反応する。

三焦
諸説あって定説がない。名前から焦がす、つまり熱源と考えられる。外界の変化に対し、常に体内の温度を一定に保つ恒常性や異物侵入の防衛を役目とする。現代医学に置換して考えるとリンパを中心とした免疫系であり恒常性の中心でもある。内臓としては脾臓である。

と、こんな具合にやってきて、今月は脾です。え?ちょっと待ってと言いたくなりますね。今しがた三焦は脾臓に近いと述べたばかりで今度は脾です。この辺りが漢方と西洋医学の関連上のややこしいところ。

漢方の脾と西洋医学の脾臓は似て非なるものです。その点を押えて脾の勉強に入りましょう。

まずは例によって一般辞書で脾臓を調べます。

広辞苑』
ひ・ぞう【脾臓】
「内臓の-。胃の左後にある。暗赤色で重さ約百グラム。内部は海綿状の血管腔(赤脾髄)とリンパ組織(白脾臓)とから成る。老廃した血球の破壊、血中の異物や細菌の捕捉、循環血液量の調節の機能および血球の生成能をもつ。」

このように脾臓は血液や免疫と深い関わりがある臓器です。

次に専門辞書に行きます。

鍼灸医学大辞典』医道の日本社
脾臓
「腹腔臓器のひとつで、横隔膜の下で左上腹部の後方、胃底の左後、第9~第11肋骨の高さにある実質臓器をいう。大きさは長さ10~12cm、幅6~8cm厚さ3~4cm、重さ80~120gで、コーヒー豆の形をしている。
構造は被膜、脾柱、脾髄からなり、脾門から血管、神経が出入りする。血液は脾動脈を介して脾門に入り、脾髄、脾洞に入ったのち、脾静脈となって門脈に入る。脾臓は、リンパ球の産生、赤血球の破壊、血液の一時保存、免疫物質の産生、細菌そのほかの小異物の摂取、ホルモンの分泌などを行う。」

 専門辞書だけに説明が細かくなりましたが、やはり血液や免疫に関わる臓器であることが分かりました。ところが漢方では全くことなります。古典に「脾胃は倉廩の官、五味出ず」という有名な言葉があります。「倉廩(そうりん)の官」とは今で言う農林省のようなものです。つまり食べ物を管理するということです。では免疫の脾とは関連がありません。

その辺りの問題を解決するために漢方の辞書を引いてみましょう。

『鍼灸医学大辞典』医道の日本社

「『素問』の霊蘭秘典論に「脾胃は倉廩の官、五味出ず」、本神篇には「脾は営を蔵す」とあり、古典の概念では、脾は食物を消化し、全身に栄養物を供給する臓腑で、脾の働きが悪いと食物の消化作用ができず、このため栄養障害をきたすと考えられた。また脾は肌肉をつかさどり、また湿とも関係が深い。現代の概念における脾臓については古典の記載にはないので、膵臓、脾臓の機能をひとつにしたものという説もある。」

 つまり漢方の脾とは西洋医学で言うところの脾臓と膵臓の合わさったようなものというわけです。

 恩師増永静人の本にはどう書いてあるでしょうか。

『スジとツボの健康法』(増永静人)潮文社

「膵臓を中心に全身の消化腺(唾液・胃・胆汁・小腸の各腺)と乳房・卵巣の生殖腺を含んでおり、また大脳との関係も深く、思考により物事を消化理解する働きに影響します。そこであまり考えこんで運動不足になると消化液の分泌が悪くなり、消化発酵の作用が妨げられます。

 症状としては、あれこれと考えこむことが多く、満腹感がなくてむやみに食べたい気がするとか、落ち着きがなくて早食いで、食べたわりに動かず、甘いものや水気の多いものが好きで、またつねに食べたく間食が多い。つねにね眠気をおぼえて、ゴロリと横になりたい気がする。消化液の分泌が悪く、口がかわき粘る。背中が痛んだり膝の痛みを訴える場合が多いようです。また肩関節の歪みにも関係して五十肩などの原因になります。」

 主として膵臓を中心とした栄養吸収の働きをするものと捉えています。

 では、ここで膵臓を調べてみましょう。

『鍼灸医学大辞典』医道の日本社
膵臓
「胃背部の腹膜外を横に走る長さ約15cmの細長い臓器をいう。肝臓とともに腹腔内にある大型消化器で、この腺組織からは炭水化物、蛋白質、脂肪などの消化酵素を分泌する。右端(頭部)は十二指腸の湾曲に入り込んでいて、左端(尾部)は脾臓に達する。その中間を体部という。」 

 もう一冊、詳細な説明を引きます。

『新版人体解剖学入門』(三井但夫)創元医学新書
膵臓
「胃の後部にあって発見しにくい。後腹壁に接着していて、前面を腹膜が覆うのみで、可動性がない。重さは70グラムである。全体として細長い器官で、これに頭、体、尾の三部を区別する。頭は十二指腸の湾曲部にはまり込み、尾は左方の脾臓と接触する。また尾は左の腎臓の前にある。膵臓は上腹部において第一から第二腰椎の高さに位する。

 膵臓は消化液である膵液を十二指腸に送る機能のほかに、インシュリンという糖尿病に効くホルモンを分泌する。膵臓内部でインシュリンを分泌する部分をランゲルハンス島と呼び、顕微鏡で認めることができる。その島は尾部に特に多い。ランゲルハンス島からはまたグルカゴンというホルモンを出し、インシュリンと拮抗する。

 なお、肝臓と膵臓は50歳を過ぎると萎縮が見られる。」

膵臓のランゲルハンス島
「膵臓は消化液を分泌する以外に、インシュリンというホルモンを分泌する何分泌器官でもあることは既述した。インシュリンはランゲルハンス島(ランゲルハンス氏の発見したもの)という特殊な細胞群から作られる。インズラ
(insula)はラテン語で島という意味である。

 ランゲルハンス島は外分泌細胞またはその排泄管の一部が変化して生じたもので、その発生は生後三~四年で止まるようである。ランゲルハンス島は膵臓の尾の部分、すなわち脾臓に近い方の部分に多数存在するが、一個の膵臓に存在するランゲルハンス島を全部集めても二・四グラムぐらいしかない。ランゲルハンス島を膵島とも呼ぶ。

 顕微鏡で見ると、ランゲルハンス島にはα細胞とβ細胞との二種を区別する。α細胞内の顆粒はアルコールに溶けないが、β細胞内の顆粒はアルコールに溶ける。

 インシュリンというホルモンを出すのはβ細胞である。インシュリンは糖尿病の特効薬として知られているごとく、血液中のブドウ糖を減少するように働く。すなわち、体内の各組織でブドウ糖がどんどん酸化されることを促進し(このことは副腎皮質中の束状層から出るコーチゾンというホルモンと反対な作用をなす)、他方では肝臓において、ブドウ糖をグリコーゲンに転化して、これを肝臓内に貯蔵する。かくして血液中からブドウ糖が減る。α細胞は逆にこの血糖を増すグルカゴンを分泌する。すなわちグルカゴンは肝臓のグリコーゲンを分解してブドウ糖と化し、これを血中に送り出すのである。」

 膵臓は消化酵素を最も多く出す臓器です。それと同時に血糖値の安定に重要な臓器であることは知られています。

 漢方で言う脾とはやはり膵臓により近いものと考えていいでしょう。さらに膵臓だけに限局せず、消化機能全体を考えます。

では、最後に脾の経絡流れを見ましょう。経絡は身体の正面を通っています。
特に膝に関わるスジで脾の経絡のバランスが悪くなると膝の関節を痛めやすくなることが知られています。

足の太陰脾経
足の第一趾(親指)から脛の内側を昇って腋の下まで

『鍼灸医学辞典』(医道の日本社)
足の太陰脾経
「下肢内側から側腹部をめぐる経脈で、所属する経穴は21穴である。直接関与する臓器は脾(膵臓)、胃であるが、間接的には消化器のすべてに関与する。経脈の性質は気多く血は少ない。その流注(ながれ)は、胃経の分れを受けて、足の母指(内側)の末端から起こり、足の内側をのぼって、腹部に入り脾に帰属し、胃をまとったうえ、さらに横隔膜をのぼって咽頭、舌まで行く。
ひとつは胃から分かれて心臓まで行く。脾経は、消化、吸収の栄養のはたらきに関与することから、胃・大・小腸などの炎症、』アトニーなどのような消化機能が減退する疾患に用いられるとともに、婦人科疾患、特に子宮出血、月経不順など、血の道症といわれる婦人自律神経失調症などにも用いられる。」

増永先生は脾の気の虚の方にはよくこのようにおっしゃいました。
「脾の虚が出る方はせっかちで世話好きの人が多いんです。漢方では「思えば脾を病む」と言います。いつも頭の中を何かの考えが駆け巡っている。正座していてもそわそわ落ち着かなくて人の世話を焼こうと常に膝を緊張させているんですね。それに急いで食べるからよく噛まない。だからよけい胃腸をいためる」

どこまで正しいかは分かりませんが、その患者さんをよく診てそのように助言しておられました。結構皆さん納得しておられました。人の世話好きというところが泣かせどころですね。

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