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2011年8月20日 (土)

游氣風信 No.179 2004. 11. 1

腰痛とその対応

       ・・・手技療法のために・・・

今月は腰痛についての特集。

このレポートはある治療のグループ指導のために書き下ろしたものです。急いで要点だけをまとめたものですから『游氣風信』として紹介するには多くの加筆を要します。

さらに医学用語だらけですから専門外の人には読みにくいものです。筋肉の知識などあまりお持ちではないでしょうから、ただ読まれても何のことだかさっぱり分からないことでしょう。

そこで、一般の方にセミナーを実施しているように解説を付加してみました。

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腰痛は多様な原因によって痛みや運動障害が腰に現れている状態です。この場合の腰とは背中の真ん中辺りからお尻やわき腹を含めた範囲と思ってください。

このレポートでは腰痛の原因をできるだけシンプルに明らかにするとともに、手技による精緻なアプローチで問題の解決を目指すことを目的としています。ただし、具体的な手技に関しては実際に実技講習をしないと伝達は不可能ですので省略します。

腰痛に対しては、西洋医学や東洋医療、その他民間療法などにさまざまな技術があります。

ここでは特に軟部組織(筋肉や筋膜)に対する手技を中心に述べます。

なぜならわたしたちは手技の専門家であると同時に、手による技術は身体に対する親和性や安全性が優れており、とても受け入れ易い治療法だからです。

腰痛の多様な原因

1 筋肉の問題

2 骨格の問題

3 血液・リンパの循環の問題

4 経絡の虚実

5 精神的問題

6 内臓からの反射

7 仕事やスポーツなど偏った動作

8 歪んだ姿勢

9 その他

説明

1 筋肉の問題

筋肉の過緊張(硬く凝ってこわばっている状態)や過弛緩(力なく緩みすぎている状態)が筋肉にさまざまな問題(栄養不足や老廃物貯留など)をもたらすと同時に、骨格や姿勢にも影響を与え、筋肉や関節に偏った疲労を生じます。もともと骨格は筋肉の程よいバランスによって支えられているからです。

背筋群(脊柱・肋骨・骨盤を結ぶ筋肉群)

 脊柱に関連する筋肉群。

脊柱固有筋群(多裂筋 回旋筋 半棘筋など)・・・背骨に直接付着している筋肉。

脊柱起立筋(最長筋 腸肋筋 棘筋)・・・背骨の両側を首から腰まで支えている筋肉。

最も凝りが自覚される筋肉群。

腰方形筋・・・骨盤と肋骨を結ぶ。ウエスト辺りでゴリゴリ凝る筋肉。下肢麻痺の人は

これで下肢を振り回すように動かして歩行する。

殿筋群(腰椎・骨盤・下肢・大腿骨を結ぶ筋肉群)

 骨盤と腰椎や股関節に関わる筋肉群。

骨盤を前傾させる 大殿筋(お尻の大きな筋肉)

骨盤を後傾させる 後大腿筋(太ももの裏側の筋肉)

股関節を支える  梨状筋群(お尻を横に走る深部の筋肉) 中・小殿筋(お尻の側面の筋肉)

腹圧群(腰を前から支える筋群)

 腹には骨格がありません。腹筋だけが頼りです。

横隔膜(呼吸に関与) 

腹直筋(いわゆる腹筋) 

内・外腹斜筋(腹の側面の筋肉)

これらの筋肉が弱ってくると腰痛になり易くなります。

四肢に連絡する筋肉

上肢へ連絡

 意外に思われるでしょうが、骨盤と肩は筋肉でつながっています。腰の問題が肩や首に、あるいはその逆に首肩の問題が腰に、それぞれ影響します。

広背筋(骨盤と腋の下を結ぶ筋肉)

僧帽筋(頭の下から背中の真ん中辺りまでの広い筋肉 肩も包む)

下肢へ連絡

 腰と下肢は直接つながっていますから理解しやすいでしょう。

大腿四頭筋(太ももの前・内・外にある。膝を伸ばす 骨盤の前と膝を結ぶ)

大腿筋膜張筋(足の付け根外側)

縫工筋(太ももを骨盤外側から膝の内側へ斜めに走る)

薄筋(太ももの後内側を骨盤から膝へ)

半腱半膜様筋(薄筋と平行)

後大腿筋(太もも裏側骨盤から膝へ 膝を曲げる)

内転筋群(股関節から太もも内側へ 足を閉じる)

恥骨筋(恥骨から太もも内側)

股関節へ連絡

大殿筋(お尻の大きな筋肉 足を後ろに蹴りだす あるいは体を反らす)

中・小殿筋(お尻の外側 足を開く)

梨状筋群(お尻を斜めに走る 股関節の運動)

2 骨格の問題

   骨格筋のアンバランスや内臓からの反射が筋肉の状態に影響し、結果として骨格のひずみを生じ、関節にストレスが生じて痛みます。

腰椎の前弯(反り腰) 大腰筋 大殿筋 大腿四頭筋などの過緊張

腰椎の後弯(腰曲がり) 腹筋群 ハムストリングなどの過緊張

◎上記のふたつは拮抗するので一方が過緊張なら反対側は過弛緩であることが多いのです。

腰椎の側弯(横に曲がる) 腰方形筋 脊柱起立筋 中・小殿筋 腸脛靭帯などの過緊張もしくは反対側の過弛緩。

脊柱の側弯(背骨全体が曲がる 多くはS字になる) 起立筋群 固有筋群 広背筋などが複雑に作用。

3 血液・リンパの循環の問題

筋肉や筋膜の緊張や緩みにより筋膜間隙の狭窄が生じ、血管を圧迫します。それによって血流が阻害されるのです。同時にリンパの流れも阻害され循環不良が生じます。

 血液やリンパは筋肉の収縮で流れます。過緊張は筋肉の膨張を生み、間隙が狭くなりますし、過弛緩は筋肉の隙間が空きすぎ、筋肉の収縮運動(ミルキング・乳搾り運動)がうまく働かないため、血液やリンパの巡行が悪くなるのです。

そうなると組織において必要な栄養や酸素が不足し、老廃物は貯留し、さらに筋肉の状態を悪くします。そこからこわばりや痛み、運動障害が派生します。

体液の不足や循環不良があると、筋膜の滑動性(滑らかな動き)に破綻を生じます。そうなると筋肉同士の擦り合わせが滑らかに行かないため栄養の運搬や老廃物などの処理に手間取ることになります。

4 経絡(けいらく)の虚実

 中国医療の考えでは経絡という十二本の線が身体を縦横に走行しています。その多くは筋肉と筋肉の隙間を走行します。その隙間には神経や血管が走り、リンパが巡行します。

 腰に関わる経絡の走行は以下の通り。

後面 督脉(背骨の真上) 膀胱経(背骨の両側)

側面 胆経(身体の側面) 肝経(下肢の内側)

前面 任脉(身体の正面正中線) 腎経(下肢の後内側 身体の正中線両脇) 胃経(身体の正面乳の線) 脾経(胃経と並列) 肺経(胸から拇指へ)

 経絡は内臓と体表とを結ぶものでもあります。鍼も指圧も経絡の緊張度(虚実)を調整することで身体調整をおこないます。

5 精神の問題

 精神的な緊張は筋肉の緊張を招きます。緊張は個々のタイプによって腰に出たり胸に出たり頭痛となったりします。ですから精神的ストレスは腰痛の原因として侮れないものなのです。だからといって原因を安易に精神面のみに求めることは危険です。

 

 精神的ストレスとはたとえば以下のようなものです。

◎職場や家族の人間関係や労働・居住環境

◎ 完璧主義や悲観的などの性格

その人の思考の癖や反応が身体化し、筋肉の緊張バランスに影響するのです。

6 内臓の反射

 内臓体壁反射といって、内臓の問題が筋肉の凝りや痛みとして派生することがあります。

それが腰痛を発症します。これは可逆的なもので、その凝りや痛みなどに適度な刺激を加えることで内臓の調整も可能です。

これらは関連する経穴(ツボ)により調整します。

対応方法

 いわゆる治療技術です。以下のことが考えられます。

◎筋肉や筋膜の過緊張や過弛緩の調整

 鍼灸、マッサージや指圧、テーピングなどで対処

 過緊張のこわばった筋肉に注意が向き勝ちですが、実はそれを緩めるポイントは過弛緩の筋肉、あるいは筋肉の隙間にあります。指圧もマッサージもそこを目標に刺激を加えることで、過緊張の筋肉を緩めることが可能です。いわゆる筋肉を揉みほぐすという行為は避けます。揉みほぐすと気持ちよく爽快感もあって、マッサージを受けた満足感を得ることが可能ですが、あまり強い刺激は筋肉の炎症を起こし、筋線維や毛細血管に傷を造ってしまいます。

 揉みほぐしは治療ではなく、慰安行為なのです。

◎経絡の虚実調整

 鍼灸マッサージ指圧などで対処

 経絡の過緊張を「実」、過弛緩を「虚」といいます。「虚を先にして実を後にする」という古典の教えの通りに行います。身体調整は基本的に虚の経絡を先に深く静かに持続的に圧し、実の部分が自然に寛解していくのを待ちます。これを「虚実補瀉」といいます。

◎骨格や筋肉に静かに深く影響を与えるストレッチ

 ストレッチの基本はあくまでもしずかに心地よく、深い呼吸とともに行うことです。ストレッチで筋肉を痛める人も多いので無理をしないことです。

◎血液やリンパの循環を助ける運動

 あらゆる適度な運動は循環の促進をします。体力に合わせてやりましょう。

◎横隔膜や深部筋群への呼吸法

 呼吸法は指圧の届かない深部の腰(腸腰筋)の筋肉をほぐす効果があります。

 呼吸の基本は鼻呼吸です。身体を風船のようにイメージします。風船が膨らむように息を吸い、しばらく止め、風船が萎むように吐きます。踵から吸気するというイメージも有効です。手の動きなどを加えると気功になります。最初は2分位、慣れたら徐々に長くしましょう。

◎精神安定のための呼吸法

 深く静かな呼吸は自律神経を安定させ、気分を安らぎの方向に導いてくれます。

 鼻の穴を片方ずつ使って呼吸します。左の鼻の穴を押さえ右で吸い、右を塞いで左で吐く。左で吸って右で吐く。これを2分位繰り返します。慣れたら長く継続。

注意

腰痛は腰のみの問題ではなく、全身の筋肉、筋膜や内臓、経絡とつながっているので部分に捕らわれないことが大切です。

夜間痛・安静痛は内臓の重篤な問題を孕んでいることもあるので専門医への紹介も考えます。

次第に症状が憎悪する場合も精査が必要です。

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