游氣風信 No.190 2006. 5.1 はりの有用性
はりの有用性 Cさんの結婚パーティー 黄砂 蟲蟲蟲
アメリカの医学会の研究レポートがネットに出ていました。
「Today's News (1/6)
鍼(はり)療法の有用性を裏付ける科学的根拠
中国の伝統的な鍼(はり)療法では、足指と眼は同じ経絡(けいらく)でつながっているため、足の小指に鍼を刺せば眼症状の回復に有用であると考えられるが、これまで西洋医学界ではこうした考えに同意が得られていなかった。
今回、西洋医学でも十分な経験を積んできた有資格の鍼師で、米メリーランド大学統合医学センター(ボルチモア)准教授のLixing Lao博士は、脳の活動を画像化するファンクショナルMRI(fMRI)を用いて、足指に鍼療法を行うことにより脳内の視覚皮質の活性が実際に刺激されることを明らかにした。同博士は、この所見は、伝統技術の有効性を現代科学が証明する多くの実例のわずか1つに過ぎないという。
米国での鍼療法に対するこうした変化は、専門家による包括的な文献の見直しに基づいて米国立衛生研究所(NIH)が一定の合意に至った1997年以来大きなうねりを見せている。合意では、鍼療法が医学療法との併用療法や代替療法として、広範囲にわたる症状緩和に妥当な治療法であるとの見解が示された。
鍼療法の対象となる症状として、喘息、手根管症候群、線維筋痛、頭痛、腰痛、月経痛、顔面筋疼痛、変形性関節症、テニス肘が挙げられるほか、脳卒中のリハビリテーションにも有用であるとされた。Lao博士は、これをきっかけに、患者のみならず医師もが鍼療法に注目することになったという。
鍼療法の重要な作用機序として、次の4つの点が挙げられる。
・ 鎮痛作用を有するエンドルフィンを放出させる。
・ 血行を改善する。
・ 抗炎症効果がある。
・ 心拍数を改善する。
鍼療法によって必ずしも、西洋医学の薬物療法と同程度の疼痛や症状の緩和が得られるわけではないが、副作用がないため、長期にわたって安全に実施することができる。
Lao博士は、薬物療法と鍼療法の大きな差はその作用機序にあり、「鍼療法は症状に対処するのみならず、基礎的な原因にも対処する療法である」と説明する。今後、「鍼療法が支障を来している身体機能に対する反応を高める」ことを示す証拠がさらに得られることが期待される。」
http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20060106hj001hj
こうした研究は必要ですね。ありがたいものです。
(4月6日)
Cさんの結婚パーティー
4月7日夜、長年身体調整に来室して下さっている米国人Cさんの結婚パーティーがありました。
結婚相手は日本人女性Yさん。一回り以上若い娘さんです。Cさんは190数センチという長身なので、治療室で鉢合わせたことのある方は、「ああ、彼か」と思い当たることでしょう。
二人の付き合いは数年に及ぶでしょうか。国を跨いでの結婚ですから宗教や国籍など色々な困難があったと思います。ともかくおめでとうございます。
わたしの治療室の壁に怪しいお面が掛かっています。気づかれた方もあるでしょう。あれはカルーン(アフリカ)のお面で、現地の方はその面を被って踊ったりするそうです。なぜアフリカの面がうちにあるのか。実はそのお面はCさんの兄Dさんのお土産なのです。ちょっとCさんに似ています(汗)。
兄のDさんは十数年前、指圧教室に来ていた外国人生徒第一期生でした。別に何期生という呼び方は無いのですが便宜上そう呼びます。なぜなら外国人クラスはBさん(先月米国から指圧の勉強に来ていたFさんのお母さん)、Sさんという米国人女性、Cさんの兄のDさんに加えてTさんというカナダ人青年の4名からスタートしたからです。
Dさんはお母さんが病気で長くないということで急遽帰国しました。そしてその後、弟のCさんが来日したのです。もっともCさんにとっては二度目の日本生活で、最初から達者な日本語を操っていました。日本語の新聞も読めます。
二人の祝賀パーティーは伏見のtiger cafeで催されました。50名ほど集まったでしょうか。3分の2は外国人。驚いたことに皆さん日本語がとても上手。Cさんが闊達に喋るので類は友を呼ぶのですね。
たまたま同席したJというカナダ人紳士は、乾杯するやいなや話しかけてきました。
「夕べ二回も蚊の音に目が覚めたよ。これは地球の温暖化のせいかな。今年の冬は寒かったけどね。カナダでは白熊が乗る氷が溶けて、アザラシが捕まえられなくて困っているよ」「そういえば、マラリア蚊が日本でも越冬するらしいですね」「そうそう、怖いねえ・・・」
中学や高校で英語を指導しているJさんはとてもお喋り。それにしても外国人は初対面でもいきなり政治や環境問題など話題にすると聞いていましたがまさにその通りでした。
その後も、色々な人が入れ替わり立ち代りやって来ては去っていきましたが、ほとんど英語を使うことはありませんでした。
唯一、英語を使ったのは皮肉なことに旧知のM女史。彼女もうちのクライアントです。彼女は17年も日本で暮らしているにもかかわらず日本語を話しません。これも一つの信念です。
二時間のパーティーはあっという間に終了。わたしはすぐに辞退しましたが、半分以上は居残り、さらに花見に出かけたそうです。
いずれにしましても外国人パーティーを楽しく味わうことができました。CさんYさん、末永くお幸せに。
(4月9日)
黄砂
八日の昼、治療に来られた方が窓から空を指差して
「今日は随分埃っぽいですよ。黄砂ですかね」
とおっしゃいました。
確かに指された空は霞というよりどんよりと埃っぽい感じです。
「中国奥地の乱開発が余計影響してるらしいですね」
などとことばを継がれました。
春は雪が溶けて地面が露出するので埃が舞う季節です。海からの東風が強いので机の上などがどことなく砂っぽくなります。これを俳句の季語では春塵といいます。しかし、同時に偏西風に乗ってやってくるゴビやモンゴル、チベットなどの砂漠からの砂も侮れません。
黄砂は季節感ある風情としてそれなりに愛されても来ましたが、近年は砂だけでなく公害物質も飛んでくると言うことで迷惑千万な存在になりつつあります。
黄砂は気象用語です。昔は「土降り」とか「霾(ばい)」と呼んだようです。
つちふるや大和の寺の太柱 大峯あきら
鳥影も霾る淡き仏訪ふ 大岳水一路
黄砂ふる日を曼荼羅にぬかづきぬ 吉田汀史
角川の歳時記から引いてみましたが、驚くほど仏教に関連します。やはり多くの日本人には西域への羨望が遺伝子のごとくあるのでしょうか。西遊記の三蔵法師、あるいは正倉院からシルクロードへつながる夢。
そんなところから黄砂はさほど嫌われてはいなかったのでしょう。洗濯物が汚れることを除いては。
歳時記の解説には「春、モンゴルや中国北部で強風のために吹き上げられた大量の砂塵が、偏西風に乗って日本に飛来する現象」とあります。
詩人でもある俳人平井照敏の編集した河出文庫の歳時記はもう少し新しい感覚の俳句が掲載されていました。
喪の列や娶りの列や霾る街 大橋越央子
〈余談ですが、娶り(めとり)とは妻(め)取る、つまり妻を迎えることですが、「娶」とはずばり「女を取る」ですごい漢字ですね〉
真円き夕日霾なかに落つ 中村汀女
つちふりしきのうふのけふを吹雪くなり 大橋桜坡子
黄塵のくらき空より鳩の列 鈴木元
これらは霾(つちふり)という現象を背景に様々な実景を置くことで風情を際立たせています。
公害物質が飛んでくるのは困りものですが、黄砂とか黄塵、霾などと言う現象が春の味付けをしてくれているのは確かです。日本も公害を撒き散らしていた時代を乗り越えました。これから発展する国にもその経験を伝えて、一刻も早く、飛んでくるのは砂漠の土だけになって欲しいものです。
(4月13日)
蟲蟲蟲
髪が伸びたので行きつけの理髪店ぽるけぴっくへ行きました。今池交差点から水道みち緑道を進んで高見にぶつかるところにあるお店です。四季折々のディスプレイが目を引きます。
折から水道みちは葉桜真っ盛り。青葉に冷やされた木漏れ日を心地よく浴びながら歩いていきました。
お話好きなマスターに髪と髭を整えてもらった後、近くの喫茶ペギーでモーニングコーヒー。豊かな朝を過ごしたのでした。
その帰り道、ふと桜の幹を見上げましたら、怪しい虫が群れています。まさに虫の字の原型「蟲」という字がふさわしい状況です。
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲・・・・・
黒い蟲の中に毒々しい紅色の蟲も混ざっています。
形から一瞬、「バイオリンムシ」が頭を過ぎりました。
しかしあれは国内にはいない虫。ならば何か。疑問を抱きつつ蟲どもを見ていたところへ幼子二人を連れた若いお母さんが通りかかりました。
「何ですか」
「変わった蟲ですよ」
「あ、バイオリンムシかな」
お兄ちゃんとおかあさんが同時に声を出しました。
「あ~、触っちゃダメ~」
おかあさんが叫びます。
この母子、やはり一瞬バイオリンムシを想起しました。かなり蟲好き親子と推察されます。
しかしあれはおそらくカメムシの類。それも五角形の亀らしい形のものではなく、ほっそりしたサシガメ。
そう読んだわたしは早速部屋に戻ってインターネットで調べました。
「桜 カメムシ」
と、打ち込んで検索。
すぐ出ました。ヨコヅナサシガメ。これが名前です。外来種であり、冬の間桜などの幹の隙
間に入って越冬するそうです。それであまり見たことがなかったのかもしれません。
毒々しい紅色の蟲は脱皮して大人になったもの。しばらくすると他と同様黒に白い線の蟲になるそうです。
中には脱皮途中のもいました。最初、二匹が一体化しているので交尾しているかと思ったのですが、それ
は脱いだ皮が付着していたのですね。
さらにおまけ。
実は帰り道、その脱皮したての蟲そっくりの女性が犬の散歩をしているところに出会いました。まさに毒々しい赤黒おばさん。その雰囲気のあまりの符合に驚いたのでした。写真を撮らなかったのが失敗です。
紅色の蟲をよく見るとお尻の方に黒い脚が見えます。これは脱皮した皮と思われます。
(5月5日)
またまた蟲
ある公園のトイレ。
ふと前を見ると怪しい蛾。
微動だにしない迷彩色。
初めて見る蛾です。形体からするとスズメガの仲間。
まるでステルス戦闘機。今まで見た記憶がありません。ステルスなら目立たないのだから無理も無いか。
林にいれば目立たない迷彩色もトイレの壁ではやけに目立ちます。
これは新種か外来種か。先日のヨコヅナサシガメは外来種が住み着いたものだったのでコレも間違いないと強引に確信してネットで検索しました。
「スズメガ 迷彩色」
簡単に見つかりました。岡山大学大学院心理学の長谷川教授のサイトには以下のように書かれていました。もっときれいな写真もあります。
http://www.geocities.jp/hasep1997/_0/06/20.htm
「文学部の建物内で迷彩色の蛾をみつけた。相当珍しいと思ってシャッターを押したが、あとで図鑑で調べたところではウンモンスズメという蛾で、ケヤキやニレなどを食べるスズメガの仲間で、比較的ありふれた種類であることが分かった。と
はいえ蝶にまさるとも劣らぬ美しさ。蛾を嫌う人が多いのが不思議だ。」
残念ながら比較的ありふれているそうです。しかし長谷川先生も相当珍しいと思われたのでわたしの第一印象もあながち間違いではないでしょう。
別のサイトではウンモンスズメの写真がどっさり出ていました。その中に、明りの下で文様が目立っているとありました。やはり迷彩色。自然光の下では目立たないものの、蛍光灯に灯されるとかえって目立つようです。
先ほどのサイトの長谷川先生。経歴をみると 京大心理卒だそうですから、わたしの恩師増永先生の後輩になります。
(5月6日)
あとがき
黄砂降る桜の季節から一気に風薫る葉桜の季節へ。時の移ろいに置いてきぼりにされそうです。(游)
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