游氣風信 No.195 2006. 11.1
今月の内容は
愛知学院大学モーニングセミナーのレポート
経絡導引教室の紹介
経絡導引教室開始一ヶ月のレポート
顔鍼レポート
です。
砂漠と綿 モーニングセミナーレポート
10月10日は7回目の愛知学院大学モーニングセミナーでした。
今回のタイトルは「砂漠と綿(コットン)--アフリカ・マリ共和国で感じたこと――」。
講師は守 誠(もり まこと)愛知学院大学大学院教授。守教授は1933年生まれ。長年商社に勤務し、50歳過ぎて大学教授になられた方です。現在73歳ですが、一見すると五十代に見える若々しい先生でした。今回はモーニングセミナーで初めてテーマが経済でした。それまでは健康中心にプログラムが組まれていました。そして奇妙なことに今回が初めて会場を提供している愛知学院の先生による講習でもありました。
タイトルだけからすると何のことかよく分かりません。しかしお話を拝聴すると論旨は明快でした。アフリカなどの貧民国の経済が如何に大国の影響下にあって喘いでいるかということです。これは今日的にも歴史的にも看過できない問題です。
具体的にはマリ共和国(アフリカ西海岸の国、元フランス領)という世界最貧国の主要産物である綿花(コットン)が国際流通上、どのような立場におかれているかというお話でした。詳細は様々な数字とともに教えてくださったのですが、先生が訴えられたことは唯一つでした。
フランスの植民地時代、そのマリ共和国一帯は綿花を作ることを命じられました。一国一産業です。それでマリ共和国は現在でも(2005年)、239の生産量を誇ります。1位は中国で57000、2位がアメリカ合衆国で5043。(以上単位は千トン、以下同じ)マリ共和国は12位です。
それに対して輸出は2004年、1位アメリカ合衆国2898、2位オーストラリア446、マリ共和国は6位207。輸入は1位中国2140。
つまりこの数字からするとマリ共和国は綿花の大国になります。しかし問題はその価格です。価格が安くて国際市場に流通させても利益が上がらないのです。
ここでふとわたしながらに淋しい脳みそで考えます。
最貧国なら物価が安いのだから国際競争力は高いはずだ。しかも高性能を競う工業製品ではなく、最も土地に相応しい農産物がなぜ国際競争力を失しているのか。不思議になります。
守先生はその原因をずばり「先進国の農業補助金」だと喝破されます。
既に先進国では農業生産物の国際競争力はありません。しかしアメリカ合衆国のように巨大な農業輸出国はそれでは国内の農民のみならず農業自体が衰退してしまうので補助金を出すのです。フランスの美しい農村風景も実は補助金の上に踊る幻想だと言われます。
そこには農業保護と同時に国内政治が絡んできます。フランスのシラク大統領は農業大臣として政治活動をスタートさせました。
身近な例ではアメリカ合衆国クリントン前大統領が地元の農産品であるコメをこともあろうに瑞穂の国日本に買えと迫っていたのと同じでしょうね。
かくして先進国の農民は補助金で生活し、輸出する時はダンピング。途上国の農産品は先進国のダンピングされた農産品とは競争できないという仕組みが出来てしまっているのだそうです。2001年の先進国の農業補助金の総額は3110億ドル、それに対して途上国への援助の総合計は550億ドル。5分の1です。
もともと、アフリカやアジア諸国は植民地時代に宗主国のために生産能力の調整をされています。言語も統一されています。マリ共和国の人たちは日常フランス語で会話しているのです。その彼らが独立した後、十分に一人立ち来ていない状態でこうしたダンピングがあれば当然困窮します。
守先生の資料は最後以下のようにまとめられました。
ブルキナファソ共和国のコンパウレ大統領は西アフリカを代表して「先進国の援助はいらない。もし、先進国が農業補助金を廃止してくれれば」と発言
先進国の一見心温まる経済援助は、実は先進国の農業補助金で途上国を痛めつけた穴埋めに過ぎなかった?
電気も水道もない最貧国マリ共和国の綿花農民に幸あれ!
現在、世界市場はヨーロッパ中心のEU、米国主導の自由貿易地域、東アジア自由貿易地域のブロック化が進んでいます。ブロック格差やブロックからの排除は戦争やテロを生みます。それだけは何とか避けなければなりません。
日本人も特に名古屋人もトヨタ特需に浮かれていないで世界の目で経済を見て欲しい。
これが守先生の一番おっしゃりたいことだったようです。
最後の質疑応答の際、補足として
「もし先進国が補助金を排したら、その国の農業が大打撃を受け、今度は地球規模での農業危機が起こるから、ことは簡単ではない」と言われました。
いずれにしてもどこかの国の出来事がピンポンのように複雑に跳ね返ってくる訳ですから、経済も自然と同様ままならないものです。
少なくとも安いと手に取った木綿のシャツの背後にこうした問題が隠れていることを自覚すること。ここから出発するしかないでしょうね。
経絡導引教室
懸案の経絡導引教室を開始しました。
10月3日からの火曜日コースと7日からの土曜日コースの二つです。
経絡導引(けいらくどういん)とは経絡指圧の恩師増永静人先生が指圧の探求の終着点として力を注がれた
経絡体操をわたしなりに理解し整理したものです。経絡体操は中国医学でいう十二の経絡(気の流れる場所とされている)を六つのパターンで行なうように構成されています。
導引は道教の道士が納めたという古くから伝わる呼吸体操のことで、今日の気功と同一のものです。気功は近代中国が整理統合して命名した新しい呼称なのです。
増永先生は橋本操体(故橋本敬三医師が伝統的な民間療法を元に考案された健康法。楽な方に動いて身体
の歪みを調整する)や野口体操(東京芸大の故野口三千三教授の創案された体操、こんにゃく体操とか芸大体操としても知られる)との邂逅によって指圧をダイナミックに再構成されたものです。
先生はそれまで受身でしかなかった指圧を自分で能動的に健康法としてできる方法として呼吸と経絡をもちいた体操を考えられたのです。経絡という言葉が難しいので、イメージ健康体操とも呼ばれました。
今回、わたしは経絡体操と漢方の基本的な考え方を組み合わせ、さらに二十四節気という季節との関連を勉強しつつ、東洋医学を日常的な養生法として提出しようと考えました。そして身体を通じて経絡やツボの勉強もしていただこうと講座を開設したのです。
幸い宣伝もあまりしなかったのですが、何名かの参加者があって開始することができました。
経絡導引教室 開始一ヶ月
経絡導引教室が始まって一ヶ月が経ちました。
東洋医術の基礎である陰陽五行説、気血水、経絡などの話を実技を加えて進めています。
特に経絡と呼吸法に重点を置き、経絡を実感しながら身体を動かすというこの教室の眼目を大切にしたいと努力していますが、まだ指導に不慣れですから生徒さんには理解しづらいことも多々あることでしょう。
そこは漢方独自の慈愛の精神でご寛恕いただくこととして、今後も身体感覚の養成を丁寧に指導していく予定です。
東洋医術は知識でなく知恵の学問です。身体感覚を澄ますことで身体を慈しんで生きていけたら素晴らしいこ
とだと確信しています。
現在経絡は任脉、督脉、肺経、大腸経、胃経と進めてきました。古典経絡と増永経絡の両方ですので時間が不十分ですが、経絡感覚が身につけばおおよそは自分で感得できるようになりますから心配ありません。
もうひとつ、東洋医術の重要項目に環境との調和があります。時候の養生の資料もお渡しして生活の参考に
していただいています。たとえば今は二十四節気の寒露です。夏の陽が沈静し、冬の陰が活発化してきつつあり、それが外見上うまく吊り合い、過ごしやすい日々となっています。しかしこれから陰の性が強くなり寒さに向います。ここで暑いからと身体を冷やすとこの先辛いことになる可能性があります。そんなとき、時節に取れる旬の食べ物がちょうどよい養生食になってくれるのです。
乾いた秋は肺の季節であり、肺は乾燥に弱い。そんな時に店頭に並ぶ梨は潤いを与えてくれる食べ物として重要になります。
こうして日々の暮らしを楽しみながら養生をして行ければ素晴らしいことと思います。決して禁欲的に厳しく食を律することが養生だとは思いません。
深い豊かな呼吸。
季節の変化を楽しむ食事。
伸びやかな導引体操。
澄んだ心。
こうした何でもないことが日々の養生になるのです。
顔鍼(美顔鍼)
前号で顔鍼(美顔鍼)について書きました。
北米ではコスメティック鍼として人気があり、それが日本でも徐々に広がりつつあるという内容でした。
わたしは本当に北米で人気があるのか在米の知人にメールで尋ねてみました。アメリカ人と結婚して現在ロスに住むCさんの返事は意外なことにそんな話は聞いたことが無いと言います。夫のBさんに聞いても知らないとの返事。
それではと米国東部に住むIさんにイギリス人女性Jさんを介して聞いてもらいました。Iさんは在日中は毎週わたしのところに治療に来ていた女性です。
ところがこちらもそんな話は知らないとすげない返事。訊ねてくれたJさんも顔の美容鍼は知らないと言います。
やはりマスコミは信用できません。その怪しい情報を信じてしまったわたしも反省しています。ただ、カナダのメディアで紹介されて反響があったというニュースはインターネットでテレビニュースの動画着きで紹介されていましたから、カナダの一部で話題になっていることは間違いないでしょう。
また、先日はテレビのバラエティーで有名な男性タレントが二人、若返りたいということで顔に鍼をしていたそうです。日本でも次第に認知されつつあることは確かでしょう。
そもそも、美容ということでなく、顔の鍼は昔からありました。顔には胃経、大腸経、胆経、膀胱経、三焦経、小腸経といった経絡が走っており、身体と同時に治療対象となっていたからです。それは顔の問題(顔面神経麻痺、三叉神経痛、鼻炎、頭痛、眼精疲労など)だけでなく、全身の調整の一環として顔に鍼をしたのです。
顔鍼に関して、とても面白いことがありました。
先ほどのイギリス人女性Jさん。彼女は毎週のように調整にいらっしゃいますが、必要を感じて顔にも鍼をしました。すると次の日、興奮したメールが英語で届きました。
「今日、三名の知人からどうしたの?何かしたの?顔がフラットだよ」と言われたそうです。フラットになるとは
どういうことは今ひとつはっきりしませんが、すっきりしたということか、ややふくよかなタイプの女性ですから本当に顔が平に見えたのか。
経験上、顔鍼をすると顔の輪郭がハッキリしたように見えます。これは顔の筋肉が弾力を取り戻すからです。
その結果、若返る感じです。おそらくフラットとはそんなことだろうと思うのです。
Jさんは当然のごとく、次回も顔をリクエストされました。そして翌日勤務している大学でまたまた何名から驚いて尋ねられたそうです。「どうして顔がそんなにすっきりしているの!?何かしたの?」
あとがき
今日は立冬。
夏の性質は陽であり冬の性質は陰です。秋は陰と陽のバランスが取れていて過ごしやすかったのですが、冬は陰が強くなります。その結果、冷えてきます。寒くなってきます。体内の陽気がどんどん外気に奪われ体力を消耗すると同時に腎を傷めます。
冬は閉蔵といい、無理をせず閉じているのが大切です。早めに寝て、朝はゆっくり日を浴びて起きるとよい。そのように漢方では言い伝えられています。それを無視して夜更かししたり、冬の寒に身を晒すと、陽の気が少な
くなり、春の生成さかんな季節について行けず鼻炎などになるというのです。
旬の野菜や果物、木の実や魚などを摂食して豊かな冬を過ごしましょう。
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