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2011年8月20日 (土)

游氣風信 No.177 2004. 9. 1

ケアマネ受験記

 今秋、ケアマネの試験に挑戦し、無事合格できました。ケアマネとはケアマネージャーの略、正式名称「介護支援専門員」のことです。

2000年4月から施行されている介護保険制度の窓口となる資格で、介護保険を利用する方の介護計画を作成し、実際の介護現場での利用者と介護や看護、医療の方々の間に立ってさまざまな調整を行う職種です。

 今年五十歳のわたしは年の初めに半世紀を生きてきたことを記念してケアマネージャーのメモリアル受験を思い立ちました。そして8月から参考書をもとに本格的に勉強を開始、10月24日、全国一斉に実施された試験を受け、幸い12月10日に合格を確認することができました。

 今月号はなぜ今更ケアマネを受験したのか。ことここに至るまでの顛末を書きます。


 たびたび書いていることですが、わたしは鍼灸・指圧の仕事を始めて約二十五年になります。開業と時を同じくして医療保険による訪問マッサージを依頼され、今日まで患者さんが途切れることなく継続しています。延べ人数は何人になるでしょうか。

 游氣風信のバックナンバーにも何度か訪問マッサージについて書いていますからご覧ください。

開業当初、まだ介護の社会制度が整っておらず、寝たきりの患者さんは自宅で家族が世間から隔離するように介護していました。あるいは社会的入院と称して病院の世話になっていました。病院にとっても安定収入として歓迎されたのです。

当時の居宅介護は医師の往診と保健婦の助言だけが頼りという家族の負担の重いものでした。「どのように介護したらよいのか」、「どこに相談したらよいのか」という情報も少なく、患者と家族が手探りで家庭介護を模索していたのです。医師も制度面の専門知識は乏しく、寝たきり防止のために活躍する理学療法士は不足して家庭を訪問する余力がない、そんな状態でした。

そこでわたしども鍼灸マッサージ師にも声がかかったのです。マッサージ師は医師の同意により医療保険による訪問マッサージやリハビリを行うと同時に、極力福祉の知識を収集し、及ばずながら患者や家族の役に立つよう努力してきました。理学療法に関しても名古屋大学病院理学療法部で研修を受け、及ばずながら医療と福祉の狭間を埋める努力をしてきました。

 その後、保健婦が中心となって家庭に篭っている在宅患者を洗い出し、精力的に訪問する時代がきました。それに連関して福祉政策の措置によりヘルパーや福祉用具(介護用のベッドなど)の援助が始まり、居宅における介護負担がかなり軽減されるようになりました。

 わたしは福祉政策からは埒外の存在ですから(縦割り行政により医療と福祉は別々でした)そうした現場の変化を傍観しながら仕事を続けてきたわけです。

在宅療養者にとってヘルパー制度はまさに神の福音のごとき助けとなりました。ご飯を炊くのも大変というおじいさんがヘルパーさんに料理を助けてもらうようなり、
「あの人は神仏だ」
と言ったことを思い出します。

 さらに褥瘡(寝だこ)予防のためのエアマットの貸与。この存在により初めて家庭介護が可能になったといっても過言ではありません。それまで重度の障害を持つ療養者の床は褥瘡による出血で赤く染まっていました。何気なく触れたわたしの手が鮮血で染まったこともありました。

そして2000年の介護保険実施です。これによって福祉と医療が統一され、利用者主体の介護が可能となりました。従来の措置という税金に基づいた援助は、ともすると利用する側にお上(世間)のお世話になるという後ろめたい感覚がありました。しかも行政主体で利用者の意向が反映されにくかったのです。

しかし介護保険は国民に掛け金を納める義務が生じる代わりに権利としての介護を利用者本位に運用できるという大変革をもたらしたのです。

同時に民間活力の有効利用として一般業者の参入が容易になると同時に、競争によるコストダウンが期待されました。

これは介護保険の明の部分。暗の部分としては財源の確保の問題、自立支援という介護保険本来の目的が逆に介護される甘えから自立心を衰えさせているという矛盾。その両者に関わる問題として業者の質と、利潤追求による利用者の抱え込み(保険の無
駄遣い)・・・。こうした点が上げられます。


さて、冒頭わたしがケアマネージャーの試験を受ける目的として五十歳を機縁としたメモリアルのためだと述べました。これは半分正しく、半分は不十分な説明です。言い換えると半分は嘘だということです。

率直に言いますと、わたしがケアマネを受けようと思った第一の理由は粗悪なケアマネに出会ったからなのです。そのことで憤慨していましたら、知人から「そんなことで怒ってないで、自分も資格取ったらどうですか。せっかく受験資格があるのですから」

そうか、それなら自分も取得して同じ土俵に上がろうと思い立った。これが一番の動機なのでした。

介護保険が実施されるようになって多くの利用者は本当に助かっています。それは実に喜ばしいことです。そして病院のケアマネージャーやケースワーカーから訪問マッサージの仕事を紹介していただき今日のわたしの仕事が成立しています。

しかし、介護保険以前と比べると訪問依頼の患者さんが微減しつつあります。これは介護保険により理学療法士が訪問するようになったこともありますが、やはり一番考えられることは施設による利用者の抱え込みでしょう。

それで生まれて初めて営業という試みをしました。あちこちのデイサービスや病院などにダイレクトメールを送り、何軒かのデイケア施設や病院のケアマネージャーを訪問したのです。

デイケア施設はどこも突然の訪問にも関わらず親切に対応してくださり、施設内の見学までさせていただきました。今まで在宅の患者さんと一対一でしか対応していませんでしたから、施設で談笑したりゲームに興じるお年寄りを拝見したのは収穫でした。

ところがある施設を訪問したときのことです。そこは医院から介護療養施設、デイケアまで手広くやっている施設のケアマネージャーを尋ねたときのことです。わたしの名刺を一瞥すると、次のように言いました。

「うちには理学療法士もマッサージ師もいますから、よそに依頼することはありません」

と。そして名刺を返してきたのです。

これは基本的に禁じられている施設による利用者の抱え込みをやっているという宣言に他なりません。しかもそのケアマネージャーの尊大で人を見下したような態度。これは今までお世話になってきた何人かのケアマネージャーとは全く異質のタイプでした。

わたしはそのとき察したのです。マスコミなどでケアマネの質のばらつきが大きいと書かれているのはこういうタイプのことかと。

まあ、この方のおかげでケアマネを受験する動機付けができたのですから今度お会いしたらお礼を言わなければなりません。

そんなこんなで受験に気持ちが動いたわたしは早速書店に行き、ケアマネの資格試験の過去問題集を一冊かって来ました。そしてぱらぱらと解いていったのです。ゴールデンウイークのころだったでしょうか。

すると意外なことに問題がとても簡単なのです。専門分野である医療の問題はともかく、ケアマネの心得や実際の面接に関する辺りは極めて常識的で特に勉強をしなくても誰でもが答えられそうです。後に購入した参考書にも「小学校の学級委員の心得と変わりありません」などと書かれていました。

問題集をざっとやってみて60%以上は正解でした。70%あればほぼ合格圏、80%あれば先ず間違いなく合格だろうとも書いてありました。それなら20%上積みすれば合格するのか、これなら大丈夫だなと何か緊張が溶けた感じでした。

考えてみると二十五年もこの業界にいますから、訪問先で出会う保健師や看護師、介護士、何より療養者やその家族からさまざまな情報を得ています。「門前の小僧習わぬ経を読む」、いつの間にかいろいろな情報を一般の方よりは集積していたのでしょう。ですから過去の問題が意外に簡単に感じたのです。これが治療室だけで仕事をしていたら知らないことだらけでおそらく30%も解けなかったのではないでしょうか。

しかしいささか少し拍子抜けしたわたしは、その後はぼんやりと気が向けば参考書を読む程度で過ごしていました。力が抜けた段階で受験も「何だかどうでもいいや」と感じたのです。根が怠け者ですから・・・。

ところで、そもそもケアマネージャーの受験資格はいかなるものか御存じない方がほとんどなのではないでしょうか。

ケアマネ試験は正式には「介護支援専門員実務研修受講試験」といいます。つまりケアマネの実務研修を受けるための基礎知識があるかどうかを試す試験なのです。

受験資格は医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、言語聴覚士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、栄養士(管理栄養士)、精神保健福祉士で5年以上かつ900日以上勤務実績のあるものです。その他、定められた施設で10年以上かつ1800日の勤務実績でも可能です。

さらに受験に際して以下の資格保有者にはそれぞれの専門分野が免除となります。
ですから全部受けると60問の問題が次のように減免されるわけです。

医師、歯科医師(医学全問免除40問)

薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、栄養士、管理栄養士、義肢装具士、言語聴覚士、歯科衛生士、視能訓練士、柔道整復師(医学一部免除 45問)

社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士(福祉免除 45問)

ということでわたしは医療の分野が免除されました。しかし自分の得意分野が免除されるので決して有利になるとばかりは言えません。大切なのは正解数ではなく正解率ですから、免除されてしまうと一問のミスの占める割合が大きくなります。

医療と福祉の資格を持っている人はさらに問題が免除されるため、よりその影響が増えることになりますから、資格を隠して受験する人もあるようです。

では、受験の話に戻りましょう。問題の低難度から勉強に身が入らなかったわたしもさすがに受験の申し込みを7月末に済ませてからの一ヵ月半は、真剣に勉強をしました。おそらく人生で最も勉強したのではないでしょうか。毎晩12時から2時まで。朝も6時に起きて1時間。その他電車の中、人を待つ間、仕事の空き時間。常に勉強をしました。

ネット上で受験生からどんたく先生と称される医師の書いた参考書を一冊丁寧に読み、予想問題集を解き、理解できない部分は政府関連から出されて基礎テキストに当たりました。予定では一ヶ月で終了するつもりでしたが、実際には2ヶ月近く費やしてしまいました。

その後、改めて過去問題を解いてみました。すると過去数年分の問題、いずれの年次も90%以上の正解率だったのでまずは大丈夫と自信を持って試験日を迎えました。未経験のマークシートの練習もしておきました。

当日の夕方には早くもどんたく先生により解答予想がインターネットのホームページに掲載されました。自己採点で80%は確実に確保できていましたから、一安心。あとはマークシートミスの無いことを祈るばかりでした。

合格発表は早い自治体と遅いところでは半月もずれがあり、愛知県は遅いほうでした。そこで試験の結果を受験者が自主的に書き込んだインターネットの掲示板を見ると、合格最低ラインは約65%だったようです。問題は介護支援分野と保健医療福祉サービス分野の二分野に分けられ、両方が65%ないと不合格だったようです。つまり一方が全問正解でも他の分野が悪かったら不合格になるのです。

12月10日が愛知県発表。運良く合格。最終的に合格した人はおよそ30%だったようです。

2005年には6月2日までに計六回の実務講習があります。それを終了すると一応ケアマネージャー=介護支援専門員と認定されるのです。当分はこのお勉強が忙しいことでしょう。むしろケアマネ試験よりもこちらの方が大変だとは先輩方の忠告です。

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