游氣風信 No,135 2001,3,1 物語は楽し
三島治療室便り
前回および前々回の「懐かしの英国児童文学」に対して、いくつかの丁寧な返事をいただきました。
こんなことは実に稀なことです。
《游氣風信》は印刷したものを手渡したり、郵送したり、メールで発送したり、ホームページ(http://member.nifty.ne.jp/hmishima/)
に掲載したりと、さまざまな方法で皆さんにお届けしています。しかし寂しいことにほとんど何の反応もありません。
ところが「懐かしの英国児童文学」には反応と呼ぶより反響と言って過言でないほどの返事をいただきました。書かれた内容も立派なので、その一部をここに紹介させていただきます。
Oさんからのメール
子供の頃に読んだ懐かしい本の数々。もう、少し忘れかけているのもありました。あの頃読んだ本は私の人間形成の一端を担っているのでしょうか。テレビのない時代に育ったことがよかったのでしょう。そして、戦後、本すらなかった時代を経て、本を読む楽しみを得られたのだったとかえってありがたく思います。
小学校に図書室が出来たのが六年生の二学期。隔週の土曜日にひとクラス二人だけが借りることが出来ました。友達の権利を譲ってもらったりして何回か借りることが出来ました。世界名作物語。そして、伝記。「黒馬物語」や「家なき子」、「キュリー夫人伝」に「野口英世」。もっとも、後年になって、野口英世の伝記は余りにも美化されすぎていると気づいたのでしたが……。シュバイツァー博士にも感動しました。
中学生になったばかりの頃、広島市にもやっと児童図書館が出来、会員になってむさぼるようにどんどん読んだのを思い出します。
「赤毛のアン」のシリーズは、村岡花子訳で一年に二冊くらい出るのが待ち遠しくてわくわくしながら読んだものでした。
シャーロックホームズのシリーズも好きでした。一度死んだホームズが「帰還」してきたときはうれしくて。十年余り前、ロンドンにツアーで立ち寄ったとき、飲めないのにベーカー街のパブに行ったことでした。推理小説のとりこになり、ペリイメイスンやエラリークイーン、アガサクリスティなど手当たり次第に読んだものです。
ここ五年ほどは推理小説に少し飽いて、あまり読まなくなり、藤沢周平、池波正太郎、山本周五郎などの時代小説を好んで読んだりしました。宮本輝の小説もけっこう楽しんで読んでいます。最近、芝木好子の小説を読み返していますが、欠けているものがあって、購入しようとしたのですが、絶版になっているものが多く驚きました。図書館でリクエストしたりして何冊かは読めたのですが、二・三冊どうしても読むことができないでいます。
三島さんは、なんといっても宮沢賢治!!!と思っていましたが、「ドリトル先生」の愛読少年だったのですね。今回はじめて知りました。上の娘が大好きで何度も読んでいました。
こんな話題、また時々取り上げてください。ありがとうございました。
(三島・・・村岡花子訳の「赤毛のアン」は今でも書店の定番です。アンのシリーズは高校の同級の女の子が愛読していましたが、アンは女の子の読むものと決めていたのでわたしは読んでいません。
「赤毛のアン」はカナダの作家モンゴメリーによって書かれたものです。カナダ人が来たとき「赤毛のアン・Red hair Ann」を話題にしましたが知らないので驚きました。しかしそれも当然でした。原題は「緑の屋根(切妻)のアン・Ann of green gable」と似ても似つかないものでしたから。赤毛でソバカス。これが西洋のいじめられっ子の典型になっているようです)
Hさんからのメール
なつかしかったなー。
私は子供のころ、病気ばかりしてたのでおかげさまで本は読みました。今でも挿絵が目に浮かびます。
でも残念だな、「楽しい河辺」が取り上げてもらえなくて。プーさんも。
「幸福な王子」は燕がかわいそうでかわいそうでねー。今思えば、あれはワイルドとボギーくん、自分の中の美しいものを切り売りして、ボロボロになって天国で結ばれる愛だったのね。 ひさしぶりでたのしかった。有難うございました。
この方は「幸福な王子」に関してシニカルな見方をされていますが、こうした見方こそまさに英国的でいいですね。確かに「幸福な王子」は同性愛という反社会的行為からイギリスを追われてフランスで夭折したワイルドを暗示しています)
Nさんからのメール
游氣風信すごく楽しく読ませていただきました!
実は私の小学校高学年時代の(今風にいうと)超愛読書がドリトル先生シリーズだったのでとても懐かしく、うれしくなり、久しぶりにメールしました。実話だと先生は思われていたそうですが、私もそうではないかと思い、動物語を話そうと、飼い犬を相手にがんばった思い出があります。
通りすがりの猫にもがんばって話し掛け、返事をしてもらえるまでに上達はしましたが、何を言ってるのか理解することは終にかないませんでした。が、いまだに通りすがりの猫に話し掛ける癖が残っており、怪しい子連れのおばさんと見られるのではと不安もあります。
学校の図書館で出会ったこのシリーズに惹かれ、親に買ってもらったのですが、その後、大学に行っている間に親が、数々の児童図書を小学校に寄付してしまい、手元を離れてしまいました。子供の生まれた今、もう一度読みたいなあ、と思ってみたりしています。本屋の児童図書のコーナーも今行ってみても、楽しいですよ!
そのほかにも、
「幸福の王子」がオスカー・ワイルドの作だったのかー!
「宝島」と「ジキル博士とハイド氏」の作者って一緒だったの?
などなど、懐かしい思い出でいっぱいでした。
ちなみにわたしはシルバー船長のファンでした。なぜファンなのかよく、自分でもわかりませんでしたが・・・
わたしの持っていた「宝島」はものすごく字の小さい、小学校三年くらいのわたしには難しい本だった思い出があります。それでも繰り返し繰り返し読んでいました。
シャーロック・ホームズもお小遣いをためにためて、お年玉も追加して全巻そろえ、「宇宙戦争」も、「十五少年漂流記」も「クリスマス・キャロル」も大好きでした!(今、全部母校の図書館にあるはずです。有効利用といえば、これ以上の有効利用はないでしょうけど、子供が生まれた今、もう一度手にしたい、本たちです。)
本当に懐かしかったです。
その後、年を追うごとに、本(小説)を読まなくなり、さみしいなあと思い返しています。また、新しいことをはじめたいと思う、今日この頃です。
毎月のお便り、楽しみにしています!
(三島・・・まだ生後一歳に満たない子の世話で忙しいお母さんです。蔵書が小学校に寄付され、〇〇文庫などと保存されているのもすごいですね。動物語の修得を実践されたとは驚き。きっと絵本を読んで聞かせるやさしいお母さんでしょうね)
それにしても皆さんすごい読書家です。わたしももっとまじめに読書していればもう少し視野の広い魅力的なオヤジになっていたかも知れません。
こうしたお返事メールを読んで喜んでいた矢先、アメリカから興味深いメールが届きました。送り主は以前わたしの指圧教室に出入りしていた米国人女性で現在はカリフォルニアに住んでいる人。
「とても素敵な話よ」と書き添えて、あるショートストーリーが送られてきたのです。
読んでみると以前どこかで出会ったことのある話です。どこかの国の民話か何かでしょう。簡単な英語なので原文のまま掲載します。大ざっぱな意訳もつけます。
AND THAT IS WHY.....
(そういう訳で・・・)
On the very first day, God created the cow.
He said to the cow, "Today I have created you! As a cow, you must go to the field with the farmer all day long. You will work all day under the sun! I will give you a life span of 50 years."
(昔、神様が牛を造られたとき、毎日畑で農夫と一緒に労働するよう命じ、50年の寿命を授けました)
The Cow objected.
"What? This kind of tough life you want me to live for 50 years? Let me have 20 years, and the 30 years I'll give back to you."
So God agreed.
(牛はそんな厳しい人生は20年で十分だからと30年分を神様に返しました)
On the second day, God created the dog.
God said to the dog, "What you are supposed to do is to sit all day by the door of your house. Any people that come in, you will have to bark at them! I'll give you a life span of 20 years!"
(次に神様は犬を造られ、ドアの横に座り、人が来たら吠えるよう命じ、20年の寿命を与えられました)
The Dog objected.
"What? All day long to sit by the door? No way! I give you back my other 10 years of life!"
So God agreed.
(犬はそんな暮らしはイヤと10年を返しました)
On the third day, God created the monkey.
He said to the Monkey, "Monkey has to entertain people. You've got to make them laugh and do monkey tricks. I'll give you 20 years life span."
(次に猿を造られた神様はおもしろいことをして人々を笑わせるように命じ、20年の命を授けました)
The Monkey objected.
"What? Make them laugh? Do monkey faces and tricks? Ten years will do, and the other 10 years I'll give you back."
So God agreed.
(猿は「人間を顔と仕草で笑わせる?だったら10年でいいです」と10年返しました)
On the fourth day, God created man and said to him, "Your job is to sleep,eat, and play. You will enjoy very much in your life. All you need to do is to enjoy and do nothing. This kind of life, I'll give you 20 years of life span."
(最後に神は人間を造り、「おまえの仕事は寝て、食べて、遊ぶだけで何もしなくていい。とても楽しい人生。20年やろう」と言われました)
The man objected.
"What? Such a good life! Eat,play, sleep, do nothing? Enjoy the best and you expect me to live only for 20 years? No way,man!......Why don't we make a deal? Since Cow gave you back 30 years, Dog gave you back 10 years and Monkey gave you back 10 years, I will take them from you!That makes my life span 70 years, right?"
So God agreed.
(人間は言いました。「食べて、遊んで、寝る。楽しむだけで何もしなくていい人生がたったの20年ですか。それならば、牛や犬や猿が神様に返した寿命を下さい」と。神は同意されました)
AND THAT IS WHY.....
(という訳で・・・)
In our first 20 years, we eat, sleep, play, enjoy the best and do nothing much. For the next 30 years, we work all day long, suffer and get to support the family.
For the next 10 years, we entertain our grandchildren by making monkeyfaces and monkey tricks.
And for the last 10 years, we stay at home, sit in front of the door and bark at people.
(人間の一生は最初の20年は食べて、寝て、遊んで楽しむだけで何もせず、次の30年は家族のために
牛のように苛酷な労働に耐え、次の10年は猿のようにおもしろい顔や仕草をして孫を楽しませ、最後
の10年は犬のように一日中家の前に座って人々に吠えかかるのです)
おもしろい話です。そしてどこかで読んだ記憶があります。しかしどこで読んだか。出典が分かりません。気になると苦になるものです。
そこでインターネットの登場です。何名かの知り合いに先の英文を送り、「どこかの民話だと思うが出典を知らないか」と尋ねてみました。
するとありがたいことにさっそく返事がありました。
Aさん
残念ながらわかりません。ごめんなさい。
昔こんな物語があったから、今こうなってます、ってパターンの話ですね。
十二支のはじまりみたいな。
こういうのって気になりだしたら、判明するまでいらいらしません?
Bさん
とてもおもしろいですね。
私も、どこかで聞いたことのある話だと思いました。でも、それがどこで、いつだったかはわかりません。ただ、この話はアジアの民話ではないか、と思いました。思想的にそんな気がします。さるが出てくることも、その感じを強めました。もちろん、確証はありません。
もし何か気がついたことがあれば、すぐにお返事しますが、今のところお役に立てなくて、ごめんなさい。
Cさん
先生のメールと相前後して高校時代同級の友人からのものが着信しました。
次男が、できちゃった結婚をしたというのです。
わたくしめは、まだ幼児の父だというのに、彼はもう「猿」の時代突入目前なのです。
Dさん
えーごが届いたからびっくりした!
初めて聞いた話です。
ヒネクレてますねえ。
どこの国民性でしょうねえ。
面白いお話をありがとう。
Eさん
残念ながら、どこの国の民話かわかりません。
最初は、聖書の中のお話かななんて思ったんですが、違うようですし…。
でも、とても感心しました。
私は牛にもサルにもなれないでいます。
多分、犬にはなれるでしょう。
いや、そんな元気もないか(>_<)
Fさん
私も読んだことがあります。有名な話だと思いますが、出典は忘れてしまいました。
ウェブ検索をしたところ、いくつものサイトで引用されているようです。
例えばhttp://punjabi.net/talk/messages/5/784.html の Jat Punjabi (jatji@hotmail.com) なら
ば、出典を知っているかもしれません。
Gさん
よくできた話しですね。
この話し通りだとすると、私は
>>And for the last 10 years, we stay at home,
>>sit in front of the door and bark at people.
の段階なのですが・・・。
論語の堅っくるしい教訓(四十にして云々)よりおおらかで面白いですね。
さて、どこの国でしょうね。牛が最初に出てくるのでヒンドゥー系の話かと思ったのですが、牛に働くことを命じていることからして、他の農耕民族でしょうね。
それにサルが登場することからしてあまり北方ではなく、東南アジア、しかもバリのような場所を連想します。
Hさん
私の聞いたことのある似た話は、確か三十年ずつ与えられた…というものでした。牛?や猿の返した寿命を人間が貰う…というくだりは一緒です。それだと、老年期は、猿だったと記憶しています。
似たような話が、あちこちにあるのかしらん。あるいは、その話を間違って記憶しているだけかしら。
出典も分かりません。
Iさん
グリム童話のなかの「寿命」という話に似てますね。
つい最近読んだ河合隼雄の本の中に引用されてました。
そこでは確か、最初ろば、猿、犬、人間に一律30年ずつ寿命が課されたことに対し、先生のストーリーにあるように、それぞれが文句をつけ、ろば、猿、犬の余った年数分が人間に加わり70年の寿命になるというもの。ただしエンディングは、先生のストーリーよりもうちょっと皮肉な結末だったように思います。 グリム童話もどこかの国の民話を元にしてるかもしれませんね。
(三島・・・ついに見つかりました。グリム童話だったのです。先のHさんの記憶は確かでしたね。30年ずつというところと、牛に?を付けたという点からかなりしっかり覚えておられることが証明されました。原典はロバだったのです。HさんもIさんも河合隼雄さんに関係したお仕事ですから、同じ本を読まれたのかも知れません)
かくして疑問は氷解しました。
ただ、どうしてロバが牛になったのでしょう。英語ではロバはass。馬鹿とか肛門の意味がありますから避けたのでしょうか。donkeyとも言いますがこれも耳が長くて愚鈍の象徴です。ロバは強情で忍耐強い動物とされています。アメリカでは戯画化されて民主党の象徴でもあるそうですから、意図的に牛に変えたのかもしれません。(ちなみに共和党は象です)
いずれにしても謎は解けたのです。感謝感謝。
さっそく岩波文庫のグリム童話集を買い求めました。全5巻からなりますが、「じゅみょう」は第5巻に載っていましたから、とりあえずその巻だけ買って帰りました。
Iさんの書かれているように結末の大筋は同じですが、もっと辛辣で悲惨なものでした。さすが残酷さで知られるグリム童話。この童話は人間の深層に深く関わると言われています。結末の詳細はここにはあえて書きませんから、ぜひ一度書物に当たってください。短いので立ち読みで十分です。
ということで、今月は物語に高ぶってみました。
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