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2011年6月22日 (水)

游氣風信 No76「続々ぎっくり腰」

游氣風信 No76「続々ぎっくり腰」

三島治療室便り'96,4,1

 

三島広志

http://member.nifty.ne.jp/hmishima/

E-mail h-mishima@nifty.com

 

≪游々雑感≫

続々ぎっくり腰

 3月24日の朝のことでした。
 今日は日曜日ということでのんびりと朝食を済ませ、愛玩している手乗りオカメインコ・オーチャンの鳥かごの餌や水の取り替えをしたあと、かごの奥にある鳥のミネラル補給用の塩土を動かそうと腕を伸ばしたら、腰骨が

 ゴギゴギ!バリバリ!

と音を立てて、全身に電気が走ったのです。
 「しまった。やった!」
これがぎっくり腰第一弾でした。
 そもそも塩土など重さにして100グラムにも満たないごく軽いもの、それをちょっと奥へ押し込んだだけでぎっくり腰になってしまったのですから人体など他愛ないもの。その場にへなへなと横たわったのでした。

 ぎっくり腰は重い物を持ち上げるときより、軽い物をちょっと横へ動かしたり、顔を洗ったり歯を磨いたり、靴紐を結んだりなどのなんでもない動作でなるとは商売柄よく聞いていました。まさに私の場合もそうだったのです。

 かがんで下に手を伸ばすと、自然に目線もそちらに向かいます。首がうなだれる形になります。このとき腰椎には体重の何倍もの圧力が加わります。折あしく腰の周囲の筋肉が疲れ、こわばって柔軟性を失っていると腰の複雑な関節がもろくも捻挫をしてしまうと、これが「魔女の一撃」ぎっくり腰なのです。

 洗顔も歯磨きも靴紐結びもみな首を下に向けるのでこれに当てはまるでしょう。靴下を履くのもそうです。
 また、屈まなくても、咳やクシャミでなることもよくあります。一度ぎっくり腰をやると、しばらくは咳やクシャミが恐怖なのです。

  教訓その1 屈んだ姿勢で首を下に向けるべからず!

 先程、第一弾と書きました。そう、悲劇はこれからが本番です。
 腰骨がゴギゴギバリバリとすごい音を立てた割には幸いさほどひどいぎっくり腰にはなりませんでした。一番楽な姿勢で昼まで寝ころんで、午後になってそろそろ起き上がってみたら、痛みはあるものの、まあ、明日の仕事は根性で切り抜けられるという確信がもてたのです。ところが、この心の隙が次の駄目押しを呼び込んでしまいま
した。

 クライアント(一般に言う患者さん)には、必ず、ぎっくり腰や強く頭を打ったときは数日間入浴しないように指導します。ところが私自身はたいしたことはないと馬鹿にして、うかつにも風呂に入ってしまったのでした。
 湯船につかったり、体を洗ったりは慎重に行動してなんともありませんでした。しかし、風呂上がり。暖まって腰が軽くなったのもいけません。体を拭くためについうっかりといつもと同じようにしゃがんで足先まで手を伸ばしました。そう、教訓その1の最悪の姿勢です。

 ゴギゴギゴギ!!バリバリバリ!!!

相当大きな悲鳴が口から飛び出しました。
「しまった。油断した!」
という思いとともに、更衣室にある洗濯機につかまって体を起こしました。またもや
 ゴリゴリバキバキ!!グキッ!

ダブルパンチならぬトリプルバンチ。3回目のぎっくり腰は決定的でした。

  教訓その2 ぎっくり腰になるときは疲労が溜まってなるべくしてなる状態にあるのだから、一度なったら当分再発に注意すべし!

  教訓その3 ぎっくり腰になったら入浴は禁忌!

 かくして4日間の休業をよぎなくされたのでした。仕事関係の方々には大変ご迷惑と心配をおかけしまた。この場で深くお詫びと、ご心配に対する感謝の気持ちを申し上げます。

 「言っちゃあ悪いが、先生の代わりは探せば見つかる。けんど家族の代わりはおらん。無理したらいかんぜ。」
とのありがたい言葉には泣けました。

 仕事再開の時、
私 「ご迷惑おかけしました」
相手 「もうすっかりいいんですか。先生でもぎっくり腰になるんですね
(言葉と裏腹、顔が笑ってる)」
私 「当然ですよ。みんなして僕を鋼鉄の機械みたいに言わないでくださいよ。同情
   どころかみんな笑うんですよ。このままでは僕はいじけて性格が悪くなるじゃ
   ないですか」
相手 「まあまあ。みんなたいしたこと無いと安心したから笑うんだから、いい年し
    たおじさんがいじけるんじゃありませんよ(それでもおかしさを我慢してい
    る)」
私 「まあ、それはわかっちゃいるんですがね(すっかりいじけた顔)」
相手 「どうやって治したんですか(興味深々)」
私 「ぎっくり腰になるということは、(気を取り直して、カッコをつけて)根本に
   全身の疲労がありますから、全身を休めるために横になっているのが一番。実
   は前の晩、若い連中と夜遅くまで飲んでいたんです。ビールと氷を浮かべた水
   割りでおなかをしっかり冷やしてね。
    治療は自分でしました。楽な姿勢で横になって、おなかの指圧とお尻の筋肉
   の指圧。足首のツボに鍼をしたかったのですが、一番腰に響く姿勢だからでき
   ませんでした。手首の近くのツボも指圧しました。2日経って痛みが軽くなっ
   たところで中学の息子に背中全体に家庭用お灸(商品名カマヤ・ミニ。その他
   色々な種類が市販されている)をさせ、小さい置き鍼(円皮鍼・家庭用商品名
   セイリンジュニア)を痛い部位に画鋲の要領でささせて絆創膏で止め、その上
   からキネシオテープで固定です。再発予防のために今もそうして仕事をしてい
   ますよ」
相手 「ほう。(やっと笑い顔が消えてちょっと尊敬のまなざし)」
私 「フフフ。(面目躍如、してやったり)」

 ぎっくり腰は椎間板ヘルニアと混同されますが全く違うと心得るべきです。ヘルニアはまれなことで、一般的なぎっくり腰は腰椎か骨盤の関節の捻挫(筋違い)なのです。

 椎間板ヘルニアは、どういう病気でしょうか。
 背骨はたくさんの骨が積み重なってできています。首の骨、すなわち頚椎は七個、胸の裏側の胸椎は十二個、ここには十二対の肋骨がつきます。今回問題のぎっくり腰になる腰椎は五個、その下に仙骨というお尻の骨と、尾骨いわゆるしっぽの骨が一つながりになって背骨を形成しているのです。

 背骨が人体の大黒柱となり、体を支えると同時に、中に脳から続いている脊髄を腰まで保護し、積み重なった骨の透き間の穴を通して自律神経が全身に分布しています。

 骨同志がただ重なっていると、体を自由に動かすことができません。左右を向いたりお辞儀をしたり、体を捩るという大きな動作をするためには関節が必要です。上下の骨(椎骨と言います)のつなぎに余裕がなければならないのです。その役目をしているのが椎間関節で、椎骨の間でクッションの役目をしているのが椎間板です。椎骨
の間の板ということですね。

 椎間板を想像するには中に餡この入った大福餅をモデルにすると便利です。堅い椎骨と椎骨の間に柔らかいが丈夫な軟骨で出来た大福餅のような椎間板がいちいち収まっていて、地面からのショックを和らげ、頭の重さから腰の負担を軽くし、全身が動きやすくしているのです。板の間に直接座るとすぐ脚が痛くなりますが、座布団を敷く
と楽になるのと同じ理由ですね。

 ところが無理が続くと、大福餅がつぶれてきます。ひどくなると中の餡こがはみ出してきます。これがヘルニアなのです。ヘルニアとは中身が出て来ることをいい、腸が股の付け根のところに飛び出す脱腸のことを鼠径ヘルニア、へそが飛び出すのを臍ヘルニアと呼ぶように、椎間板の軟骨の中身が飛び出すのを椎間板ヘルニアを言うの
です。

 飛び出した中身が背骨から出ている神経に当たると猛烈な痛みを発します。これが椎間板ヘルニア。特徴は足がしびれたり、力が入らなくなります。痺れた側の足で爪先だちもしくは踵立ちが非常に難しくなります。また、仰向けに寝て、足を伸ばしたままで高く上げることができません。
 こういう症状があるときは、強く腰を捻る整体やカイロプラクティクの治療は絶対禁物です。

 腰の痛みに伴って、足の症状がある場合は、医師のもとできちんと診断してもらう必要があります。

  教訓その4 ぎっくり腰のあと、脚に強いしびれがあるときは、整形外科か神経内科で精密検査を!

  教訓その5 脚にしびれ、手にしびれがあるとき、背骨を強くひねる治療は絶対だめ!

 ぎっくり腰のほとんどは、足に症状のでない、腰椎の捻挫か腰の筋肉の挫傷(筋違い)です。椎間板は関係ありません。固い腰骨を上下に支えている椎間関節というところの捻挫か、その周辺の筋肉の挫傷だと思って差し支えありません。
 ぎっくり腰になったらまず安静が大切。さる整形外科の先生も痛いときは自宅で横になり、歩けるようになってからいらっしゃいと言われるくらい初期の安静が後に響いてきます。
 なにしろ腰の捻挫です。足首を捻挫した時と同じく動かすことは避けなければいけないのです。

  教訓その6 ぎっくり腰をやったらまず安静!

 患部はそのままにしておくか、24時間以内なら冷やすといいでしょう。お風呂は禁物です。ともかく時間の許す限り楽な姿勢で寝ることです。

 その時、次のことをするとよろしいでしょう。
 おなかの筋肉を緩めるように、静かに、かつ、深い指圧をする。手のひらで優しくおなかを圧するのです。ぎゅうぎゅう押してはいけません。圧えて気持ちの良いところがあったらていねいに長い時間圧します。

 おなかがすんだら、今度は股関節と骨盤の間の筋肉を強く指圧します。中臀筋と小臀筋という筋肉があって、腰痛の特効部位です。「気をつけ」の姿勢を取ったとき、手首がちょうどお尻の横の出っ張った骨に触ります。そこから骨盤の真横の骨に向かう筋肉を親指で強く刺激するのです。
 以上は寝たままでできます。

 さらに、お尻の下に手が入れられるなら、仙骨というお尻にある逆三角の骨の輪郭をごしごしマッサージします。少々痛くてもかまいません。げんこつを使ってもいいでしょう。ごりごりやると、小さな筋のようなつぶつぶのようなしこりが一杯ありま
すから、それを均すように刺激するのです。痛いけど気持ちいい複雑な気分です。
 これらの処置を気が向いたとき試みると治るのがうんと早くなります。

 ぎっくり腰にしても寝違い(首に出たぎっくり腰)にしても深部の損傷をかばうために表面の筋肉が堅くなっています。体を動かすと奥の損傷がひどくなりますから、筋肉でよろいのように守っている訳です。しかし、それが続くと血液やリンパの流れが阻害され、筋肉の緊張が神経を圧迫するので逆に治りが悪く、痛みもひどくなります。そこで安静にしたときにはしずかに筋肉を緩めるマッサージが功を奏するのです。
しかし、患部を動揺させるような刺激は禁物であることは言うまでもありません。

 うつ伏せになれるなら(この姿勢は腰に大変悪い)、家の人にカマヤミニという小さな筒に入った火傷しないお灸がありますから、それを背中にずらっとすえてもらうと気持ちよくなります。これも静かな治療ですから安心です。

 どうしても完治する前から仕事をしなければならない方がほとんどだと思います。
そんな方には骨盤ベルトとキネシオテープ、さらにセイリンジュニアという家庭でできる鍼をお勧めします。

 キネシオテープはお相撲さんがべったりと肌色のテープを貼っているのを見たことがおありでしょう。あれは加瀬建造という創意あふれる治療師が開発したもので、スポーツ選手を初め多くの人に愛用されています。私はこのテーピングが有名になる前、多分第一番に臨床報告を専門誌に発表し、加瀬さんに大変喜ばれ、誌上座談会に招かれたことがあります。昭和60年のことでした。

 詳しい貼り方は書店に本が出ていますから、購読されるか、私のところに来て下されはお教えできます。

 骨盤ベルトはテレビでも宣伝しているようですが、骨盤に生ゴムでできたベルトをしめるのです。自転車のチューブでもよろしいです。

 セイリンジュニアは鍼ですが、先程、私が中学の息子にやらせたと書いたように家で簡単に、安全にできます。うまくツボに当たると信じられないほど痛みが和らぎます。

 テーピングは筋肉を安定させ、筋力を高め、骨盤ベルトは骨盤を安定させます。鍼は血行を促進し、鎮痛物質を発生することで痛みを和らげることが証明されています。


 ぎっくり腰は体が疲れて、もうだめだという限界になる前に、体からストップをかけてくる、いわばショックアブソーバー・安全弁です。今までの生活ぶりを猛省して、体を労りつつやっていく必要があるでしょう。

 私の仕事は鍼にしても指圧にしても、一日中中腰です。さらに寝たきりの方の訓練や運動法も腰に負担をかけます。直接介護をしている家族の人とは比較にならないくらいたいしたことではないのですが。しかし、長年の仕事が必要以上に腰に無理をし、疲れを溜めていたのでしょう。バドミントンも無関係ではありません。そこに夜遅く
まで飲み歩いたのが決定打となったのもと思われます。

 治療に携わるこちらが体を傷めるようなことがあっては、治療を受ける人に申し訳がたちません。引け目を感じさせてしまいます。本当に注意しやっていかねばと目下反省の日々を送っている毎日です。

 しかし、4日間不自由だったことで、病気のつらさを再学習できました。それに伴う社会的障害も。
 さらに介護を受けている人の気持ちのほんのさわりを学ぶ機会にもなりました。体が自由にならない辛さ、痛さ、不自由さ。さらに家人の世話になる心苦しさ、うっとうしさ、いらいら・・・たった4日でさえこうです。これが永劫に続くとしたらそれは本人にも家族にも大変な重圧です。
 もう一つあります。介護者がぎっくり腰になったら誰が障害をもつ人を介護するのでしょう。これは家族だけでなく社会的な大問題です。

 私は毎日介護をしたりされたりする人にかかわることで生活の糧を得ているのですからこれくらいの体験学習をしなければ済まない、ぎっくり腰に申し訳が立たないというものです。
 この感慨ですらその方たちからすればちゃんちゃらおかしいと言うべきものなんですから。

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