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2011年6月22日 (水)

游氣風信 No71「乱読・積読 」

三島治療室便り'95,11,1

《游々雑感》

乱読積読
(らんどく・つんどく)

 今、読みかけの本は「ソフィーの世界」。
 ノルウェーの作家ヨースタイン・ゴルデルの世界的ベストセラーです。日本で も今年の六月にNHK出版から刊行以来、すでに百万部を越える勢いだそうで、 厚さが4センチ、667頁もあるハードカバーの本の売れ方としては驚異的な数でしょ う。今年の出版界の一番大きな話題となることは間違いありません。
 作者は元高校教師で専門は哲学だったそうですが、今は作家に専念しています。

 「哲学者からの不思議な手紙」という副題をもつこの本の内容は上質なファン タジー(幻想)と、謎をはらんだミステリー、高校か大学教養科目レベルの西洋 哲学史を同時進行させるという全く新しい形式の小説で、物語の中ほどでファン タジーらしく大どんでん返しがあり、あっと驚かせてくれます。

 哲学の歴史を神話時代から今日に至るまで順に分かりやすく説いて、人類の思 考の流れを大づかみにできるという知的好奇心を満足させながら、不思議なスト ーリーの展開に興味を持たせ、なおかつ現代文明への警鐘やフェミニズム(女性 解放)、国際平和問題などもさりげなくちりばめるなど心憎い演出があり、内容 が重層的に濃い作品で、世界各国で売れに売れている理由が分かります。

 わたしは夏の終わりから読みかけて現在四分の三ほど読み進んでいます。夏の 終わりから読み出してまだ読み終えていないとは、分厚い本とはいえいかにも遅 いでしょう。
 理由のひとつには、哲学講義の部分をていねいに読んでいるということがあり ます。ストーリーだけを読むなら斜めに読み飛ばしてもいいのですが、せっかく 講義形式をとってあるので吟味しながら読み進んでいるわけです。
 それから言い訳がましいことを言えば、まとまって読書に集中できる時間が案 外少ないことや、電車に持ち込むにはこの本はあまりも重くて適さないというこ ともあります。通勤時間はとても大切な読書の時間なのです。

 でも、読書が遅い一番の理由は違います。
 それは、わたしは本は熟読せず、いつも乱読でごまかして一冊の本に集中しな いからなのです。その本だけに時間を裂かないで同時に何冊かの本を平行して読 む方法を昔からとってきました。なぜならば、興味の範囲が偏るのを避けるため と、飽きっぽい性格をなだめながら読書するためです。

 けれども、こういう読書方法をとる人は案外いるのではないでしょうか。忙し い人ほどまとまった読書時間を作ることができないので、空いた時間に見合う本 をその場その場で選んで読んでいるのです。
 ある程度長い時間が作れる時は分厚い本を机に向かって読みます。あるいは集 中して学習しながら読まなければならない本を選ぶでしょう。短い時間が空いた 時は内容の軽い読み飛ばせる本、電車の中で読むなら携帯性に優れた文庫や新書 という具合。

 東京行の新幹線の中で「情報整理のすべて」(PHP出版THE21増刊号) を読んでいましたら、岐阜選出の国会議員野田聖子氏の読書法が載っていました。
それがわたしと似ていて、氏は「あちこち置い読(とく)法」と名付けています。
空き時間を有効に使うためにあらかじめ「あちこち」に本を置いておくのです。
なぜなら一冊の本をちまちま読んでいては、情報が「単数」になりかねないから、 いくつもの本を同時並行して読むのだと書かれています。
 氏は「コマ切れに」「あちこちで」「同時並行に」という読書法で年間200冊 も読まれるそうです。政治家は世間で考えられる以上に勉強しているとは氏のお 言葉です。なるほど、さすが政治家と言いたいところですが、勉強の内容を吟味 したい政治家も多いと思いますよね。

 ちなみに、わたしが先の「ソフィーの世界」とほぼ同時進行で読んだ本を列記 しますと、

天動説(坂本宮尾・句集・花神社)
脳内革命(春山茂雄・サンマーク出版)
神経内科(小長谷正明・岩波新書)
ゾウの時間 ネズミの時間(本川達雄・中公新書)
二度目の大往生(永六輔・岩波新書)
パソコンをどう使うか(諏訪邦夫・中公新書)
日本語はどういう言語か(三浦つとむ・講談社学術文庫)
俳句関係の雑誌数冊
仕事に関係した鍼灸専門誌
その他、各種の週刊誌や写真週刊誌、新商品紹介雑誌、自動車雑誌、格闘技系雑
誌など。

 ざっと内容を紹介しましょうか。

 句集「天動説」
を書かれた坂本宮尾さんは俳句の仲間、大先輩です。東洋大学文学部教授で、英 文学が専門。イギリス留学中に知り合ったご主人を早くに亡くされた彼女は、先 年、四十代半ばでアメリカに子連れ留学をされ、「アメリカは楽しかったー息子 たちの異文化体験」という本をサイマル出版から出されています。
 彼女の句集としてはこの「天動説」が始めてとなります。
 俳句は山口青邨、有馬朗人、黒田杏子先生に師事。

  ぬばたまの夜やひと触れし髪洗ふ
  ほうたるとひとつ息してゐたりけり
  はるかなる天動説や畑を打つ

などの句が注目されています。
 昨年、長島温泉でわたしたちの所属している俳句の会の全国大会があったとき 彼女の作った

  ひと畝の紫蘇を育てて木曽輪中
  万太郎ほたるのごとき仮名散らし

は印象的な句でした。
 万太郎とは劇作家で俳人の久保田万太郎。彼が桑名の船津屋という古い旅館に 逗留していたときに書いた軸の繊細な文字を詠んだ俳句です。この軸が船津屋の 主の計らいで床に掛けてあり、その演出に参加者が感動したのでした。この句は その感動に対する挨拶です。

 「脳内革命」
はこの風信でたびたび取り上げました。楽しいことに集中したり、プラス思考で ものごとをとらえていくと、脳の中に良いホルモンが生まれ、これは体にも良い 作用を及ぼし、毒性の強い活性酸素も押さえるが、怒ったり、マイナス思考で考 えると体に害を及ぼす物質が発生し、活性酸素も増えるという内容でした。

 人のためや、周囲を生かす行為をするとこの良い脳内ホルモンが無尽蔵に出て くるので、二十一世紀は人類全体がこうした方向に進むべきだと、医学的見地か らこの地球という星の将来を見据えた啓蒙の書となっています。今、大変読まれ ています。

 鍼や指圧のように心地よい刺激を身体に与えることでも良いホルモンが作られ るというので、わたし達の仕事には素晴らしい応援になります。

 運動・食事・瞑想が健康の三本柱と解かれていますが詳細は読んでみてくださ い。いろいろと啓発されます。
 こうした本が広く読まれているのは「ソフィーの世界」と同様すばらしことで す。この一年、オウム真理教に振り回されてきた日本人も、まだまだ捨てたもの ではないと感じさせてくれますよ。

 「神経内科」
は仕事上、神経性難病の方の在宅ケアに携わっていますから必要知識を学習する ために読みました。

 「ゾウの時間 ネズミの時間」
は副題に「サイズの生物学」と銘打ち、体のサイズから生物をみるとその可能性 や限界が見えてくるというものです。作者は教育テレビで半年間講座をもってい ましたからご覧になった方もおありでしょう。おかしな自作自演の歌を生真面目 に歌いながらの生物学講座「歌う生物学」は笑えました。
 通常わたしたちは一生を時間で捕らえます。しかし、それは人間を中心とした 時間です。サイズの異なる生き物は違う時間を生きているのではないかとこの著 者本川教授は言います。そして次のような歌を作られたのです。

一生のうた

1、ゾウさんも
  ネコも ネズミも 心臓は
  ドッキン ドッキン ドッキンと
  二〇億回 打って止まる
2、ウグイスも
  カラス トンビに ツル ダチョウ
  スゥハァ スゥハァ スゥハァと
  息を 三億回 吸って終わる
3、けものなら
  みんな変わらず 一生に
  一キログラムの 体重あたり
  十五億ジュールの 消費する

 哺乳類はゾウもネズミももちろん人間も一生の間に20億回心臓が鼓動して一生 を終えるそうです。ネズミのように小さい心臓では早く血液を送らないと体が冷 えてしまうので忙しいのです。ゾウは体が大きいのでゆっくりでいいのです。ネ ズミの寿命が短くて、ゾウは長生きといいますが、一生に心臓の打つ数はほとん ど同じというのはおもしろいですね。
 この本は三年前のベストセラーでしたが、わたしは買ってずっと積ん読、今頃 になって読んだのでした。

 「二度目の大往生」
からは次の文を引いておきます。

「あなた、悲しいだろうが、これでいいんだ。
いいかい、これが、あなたが死んで、年寄りが残ったりしてみろ、一人娘を先に 逝かせた老人、これは他人が慰められるものじゃない。 しかし、父親を亡くした娘さん、これは物の順序だ。これが世の中というもんだ。 寂しかったら私のところに遊びにいらっしゃい!いや、いい仏になった」

 ☆藍染めの名手の片野元彦さんが亡くなられたとき、岡山から葬儀に駆けつけ たという老人が、遺された娘さんに言ったことば。僕はこの老人こそ、名僧の資 格があると感動した。

 永さんには昨年「大往生」の紹介文をこの風信に書いた時、出版社気付で送り ましたら、とんぼ返りに葉書をいただきました。多い日は100通も返事を書く人 だとは以前から知っていましたが、その迅速さには驚いたのです。
 ついでの折りに永さんと親しい俳句の師、黒田杏子先生にこのことを手紙で書 きましたら 「永さんとはそういう人です。」
と、お返事をいただきました。そういう人とはどういう人かよくわかりませんが、 なんとなくそういう人だなという印象は受けたのです。俳句の師弟らしいまこと に俳句的なやり取りでした。
 ちなみに、黒田先生は来年度のテレビ、NHK俳壇の講師を月に1回担当され ます。興味ある方はご覧ください。

 「パソコンをどう使うか」
 この本は大ベストセラーになった野口悠紀男著「超整理法」の中ですばらしい と紹介された「ナースのためのパソコン入門(諏訪邦夫著・中外医学社)」を、 多くの人からの要望に応えて諏訪氏が一般向けに書きおろされ爆発的に火がつい た本です。著者は医師。実際に苦労して使いこなしてきた体験から導かれた初心 者向けのパソコン本です。

 パソコン雑誌はマニアのために書かれているのであまりに難しくまた、パソコ ンのためのパソコンといった無用な記事が多く、これからパソコンを仕事に使お うという人の役に立ちにくいのに比べ、この本は実務でどう使うかがしっかりと した著者の哲学のもとに書かれていて人々の共感を得ました。

 ただ惜しむらくはこの本が出た95年4月以降、パソコンの世界はパソコン本体 の急激な進歩やソフトウェアの大変化があり、内容の一部が、早くも時代遅れに なりつつあることです。しかし、これはこの種の本としてはしかたありません。 パソコンとの付き合い方などは大いに参考になります。

 「日本語はどういう言語か」
は内容が難しくて、考えながら読まなければならない本なのでまだ読みかけ。
 例えば〈助詞〉「が」と「は」の使いわけの項。

 わたし(は)頭(が)痛い。
 象(は)鼻(が)長い。

から、「が」を小さなせまい部分に「は」を大きくひろい部分に使って組み合わ せるという使いかたを読み取り、

 からたちのとげはいたいいよ
 からたち(は)畑の垣根よ

から、「は」には特殊性を扱う場合と普遍性を扱う場合と二種類の使い方がある という重大な事実を読み取ることができると書かれています。
 「からたちの刺は痛い」というのは「からたちの刺」の普遍性を表し、「から たちを利用した畑の垣根」は四季を通じてあるという普遍性を表す、つまり、助 詞の「は」は特殊性を表すときも普遍性を表すときにも用いられるというのです。
全編こんな感じですからなかなか読み進めないことにご理解いただけると思いま す。

 雑誌類は興味ある記事を拾い読みするだけで、必要とあればその記事は切り取っ て袋に入れて保存し、あとはさっさと捨ててしまいます。

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