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2011年6月22日 (水)

游氣風信 No102「未来免疫学と自律神経」

三島治療室便り'98,6,1

以下の文章はマスコミの寵児となって多くのファンを持つ前の安保徹先生の話です。
その後の活躍に驚くと同時に、学会ではトンデモ本の作者として相手にされなくなってしまいました。
この頃の論文は面白かったのですが・・・・。
2011/06/15


≪游々雑感≫

 昨年のお盆、おもしろい新聞記事に遭遇しました。

 それは免疫に関する試論ですが、
「なるほど、言われてみれば納得いくぞ」
という内容です。
 要旨を簡単に紹介しましょう。しかし何分当時要点をメモしただけですし、10カ月も経っていますので内容はおおよそあっていると思いますが、表現は原文とはほど遠いことをお含みの上お読みください。

免疫未来学

   信濃毎日新聞1997年8月13日より

新潟大学医学部教授安保徹先生の「未来免疫学」。
骨子は人間の寿命は気圧に影響されるというもの。

 新潟大学の安保教授が「未来免疫学」を提唱されています。
 その考えに至る経緯がなかなかおもしろいもので多分に脚色されていると見ていますが次のような逸話です。

 免疫学専攻の安保先生はある日、知人の外科医福田実先生から
「俺はゴルフが大好きなのに、天気のいい日に限ってアッペ(虫垂炎)の患者が来て、ゴルフに行けないんだ」
という愚痴を聞かされたそうです。
 免疫専門家はその時、ピンときたのか次のような推論を立てました。これが「未来免疫学」の始まりです。

 なぜ晴れた日に虫垂炎(一般にいう盲腸炎)が多いのだろうか。
 医学的に考えると天候と虫垂炎は無関係のようで以下のような関係がある。

◎晴天と虫垂炎の関係
 ・晴れた日は高気圧である。
 ・高気圧は酸素が多い。
 ・酸素はからだにとってストレスになる。
 ・ストレスは自律神経を交感神経緊張に導く。
 ・交感神経緊張で体から出るホルモンはアドレナリン。
 ・アドレナリンを感知するレセプター(受容体)を持った白血球は顆粒球。
 ・以上の理由によって晴れた日は気圧が高く、自律神経の内の交感神経が緊張して白血球の中の顆粒球が増える。
 ・顆粒球は細菌を殺すために活性酸素を出す。
 ・その活性酸素が細菌だけでなく虫垂の粘膜までも破壊して虫垂炎になる。

これを「福田-安保の法則」と半分冗談で名付ける。

というものです。

 なにやら「風が吹いたら桶屋が儲かる」みたいですね。
 余談ですがどうして「風が吹いたら桶屋が儲かる」かご存じですか。
 詳細はかくのごとしです。

 風が吹く
 砂ぼこりが立つ
 砂に目をやられて盲人が増える
 盲人は三味線を弾いて生計を立てる
 三味線は猫の革を使う
 猫が捕まえられて少なくなる
 猫が減ればネズミが増える
 ネズミが桶を齧る
 桶屋が儲かる

 いや、これと「未来免疫学」をいっしょにしてはいけません。
 「未来免疫学」にはさらに詳細な医学的説明がありました。

 わたしたちの体のさまざまな生体反応は自律神経が請け負っています。
 自律神経はわたしたちの意識に関係なく生命維持に関与していて、通常わたしたちには何ともできませんし、意識に登ることもありません。古くは植物性神経とも言われました。
 具体的に説明しましょう。

 机の上にリンゴがあるとします。
 それを見たとたんおなかがグーっと鳴ります。胃が動いたのですね。
 胃が動いたのは自律神経の作用です。ただし、リンゴを見ただけで胃が動くのは条件反射(梅干しを見たら唾液が出る等)の一種。
 次にリンゴを食べたくなって手を伸ばします。これは意識動作ですから自律神経ではありません。
 口に運んだリンゴを齧るために口を開けます。これも自律神経ではありません。
 噛みます。これも自律神経ではありません。
 唾がじわっと出てきます。これは自律神経。
 飲み込んだら食道から胃、小腸、大腸、直腸と順次送られていきます。これは全て自律神経の働き。
 消化・吸収のために胃液や胆汁、膵臓から膵液などが出ますがこれも自律神経の働き。
 最後の排便は・・本来は意識に関係ない自律神経の作用なのですが、学習によってトイレに行くまで我慢するという人間社会に適応するために必要かつ不可欠な高度な技術を身につけて意識動作にしました。この技術は人だけでなく犬や猫でも体得します。

 呼吸はどうでしょう。
 普段は知らず知らずに行っています。
 一息ごとに
「さあ、ここらで息を吸おう。よし、今度は吐こう」
などと意気込まなくても(息込まなくても)自然に呼吸しています。これは自律神経のお陰。
 でも、ときどき気を取り直して深呼吸をします。これは意識動作です。純然たる自律神経の作用ではありません。
 ですから呼吸は自律神経だけの作用ではないのです。
 ちなみに呼吸法が自律神経失調症のトレーニングに利用されるのはそれが意識と無意識の両方に係わる運動だからです。

 自律神経がうまく働かなくなると昼間はやや興奮気味で活動的、夜間はおだやかで休息的というリズムが崩れます。
 そうなると夜は自然に眠くなって安らかな眠りに陥るはずなのに、妙に心身が緊張してしまい、寝所に入ってもなかなか眠れない・・などの問題が生じます。他に理由が見当たらなければ自律神経失調症と診断されます。

 さて自律神経についての説明はだいたいお分かりいただけたでしょうか。
 先に進みます。さらに細かくなります。
 自律神経には交感神経と副交感神経があります。
 例えば緊張した状態。試合の前などを想像してください。
 心臓はどきどきし、血圧があがり、血流も増大、呼吸も荒く速くなります。血液の多くは筋肉に集まり、活動に備えます。目は見開いていかにも興奮した状態。そのとき、胃腸などの消化に関係する臓器は休んでいます。
 臨戦体制でおなかが減ったりしたら困ってしまいますからね。
 このように試合の前のような緊張状態を作るのが交感神経です。

 逆に休息状態にある時は副交感神経が優位になっています。
 心臓はゆっくり穏やかに拍動し血圧が下がり、血流は減少、呼吸もしずかにゆっくりになります。
 反対に消化吸収のために胃腸などに血液が集まり、心肺器官以外の臓器は活発になります。寝る前に食べると太るというのはこのためですし、給食の後の授業が眠たくなるのは、胃腸に血液が集まって頭が軽い健康的な貧血になるからです。

 交感神経と副交感神経はシーソーのようにいつも反対に働き、一方が強くなると一方は休みます。あらゆる器官には両方の神経が行き渡り絶えずバランスを取っているのです。
 こうして知らず知らずにわたしたちのいのちは努力しなくても環境の変化に適応し生存していけるのです。

 自律神経の勉強が終わったところでまた「未来免疫学」に戻ります。

 この自律神経と免疫の主役である白血球に複雑な絡み合いがあります。
1 交感神経と顆粒球(白血球の一種)
2 副交感神経とリンパ球(白血球の一種)
 これらがそれぞれセットになっていて、人体に影響を及ぼす。

自律神経のうち
1 交感神経は活動的な機能に係わる。
2 副交感神経は安静などの機能に係わる。
  

1 顆粒球(白血球の一種)は交感神経緊張で分泌されるアドレナリンを感知するレセプターを持っている。
2 リンパ球(白血球の一種)は副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンを感知するレセプターを持っている。

タイプに分類すると
1 顆粒球型人間
  やせ型、色黒、活動的で働き者。便秘、胃潰瘍になりやすくがん体質。
2 リンパ球型人間
  色白ぽっちゃり、のんびり。下痢でアレルギー体質。
(タイプ分類も新聞に書かれていましたから掲載しましたが、こうした分類を深刻に考えないでください。人はこんなに単純に分類出来るものではありません。やせ型で色白でのんびりで便秘なんていう具合にパターンに合わない人はゴマンといます。自律神経の作用を決定する環境の変化は無限ですし、反応する人も千差万別ですから形通りの反応などパターン化は困難です。あくまでも参考に・・・三島)

長寿県と短命県

 長寿県の長野、沖縄、山形などは気圧が低くリンパ球優位。
 短命県の青森、秋田、大阪、福岡などは高気圧で顆粒球優位。
(これも同様で、じゃあ、そこへ引っ越ししようかなどと考えるのは無益なことです。
長野県に住む人が全員色白ぽっちゃり、のんびり。下痢でアレルギーなんてことはありえませんから・・・三島)

先行研究として
 故斎藤章東北大教授の生物学二進法(安保先生の恩師)があります。
 白血球の中の食細胞の仲間とリンパ球が、それぞれ交感神経と副交感神経に対応するというもの。

「免疫未来学」の考案者・安保徹先生の談話

 水の特徴を知りたい時、分子、原子、クウォーク・・とどんどん細かく調べていくとする。ところが、それでは結局、水とは何なのか最後まで分からないと思う。水を知りたければ水そのものを研究するしかないんです。同じように、人体について知りたいのなら、人体そのものを研究するしかない。遺伝子をいくら研究しても、人間の生命は分からないとおもいますよ。

安保徹(あぼ・とおる)
 47年青森県生まれ。東北大学医学部卒。胸腺外分化T細胞発見(89年)などの実績がある。91年より新潟大学医学部動物免疫学教授。著書に「未来免疫学」(インターメディカル)。

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 気圧が免疫機構にこうした影響を与えているとは興味深い意見ですね。
 それまでは漠然と体験的に思われていたことですが、高気圧と交感神経と顆粒球とアドレナリン、低気圧と副交感神経とリンパ球とアセチルコリンに関連づけられて説明されるとなるほどと思います。
 また、こうした関係が複雑に絡み合って生命が維持されていることに感動します。
 分析的に要素を関連づけて仮説を唱えつつも、結局人体は人体そのものを研究しなければ分からないという意見にも貴重なものがあります。

 以上が「未来免疫学」の骨子を新聞のメモを元に紹介したものです。
 ところで、肝心な免疫の説明がしてありませんでした。
 免疫とは何でしょう。
 日常何げなく使っていますが改めて問われてみると難しいですね。専門家は「自己と非自己の認識と排除」などと簡潔に言い切ります。
 自分(自己)を守るために、自分以外の異物(非自己)を排除して体を守るシステムを免疫といいます。
 簡単には、風邪のばい菌が入ってきたらやっつけるシステムです。ガン細胞などもこのシステムで常に芽を摘んでいます。
 免疫のシステムは次々に新事実や仕組みが明らかにされ、今日では神経系や内分泌系などと密接な関係があることが知られ、近年には精神との関係もあることから「精神神経免疫学」などという分野も登場してきました。

 昔の子供はいつも鼻から青い鼻水を二本垂らしていました。
 あれの多くは鼻に侵入した非自己であるばい菌を自己である白血球などの免疫最前線部隊がやっつけたばい菌や犠牲になった白血球の死骸です。ところが、今日、きれいになった社会ではあまりばい菌がいません。鼻に配備した強力殺菌部隊は手持無沙汰になっています。活性酸素という核兵器にも劣らぬ最終兵器を遊ばせているだけでは退屈になっています。そこで鼻の奥の部隊ではばい菌に代わる攻撃目標はないかとうずうずしていました。
 そこへやって来ました。念願かなって仮想敵国が見つかったのです。それは何でしょう。
 そう、花粉です。
 強力部隊はここぞとばかりに攻撃をしかけました。敵は単なる花粉。ちょろいもんです。しかし、攻撃力があまりに過度で鼻粘膜をも多大に損傷してしまいました。
 これが花粉症であるという医学者がいます。頷けます。

 同様に、皮膚の免疫部隊がばい菌の代わりに無害なダニの死体やら排泄物やら家の埃などに戦いを挑みました。これがアトピー性皮膚炎です。
 どうも今日の国際社会と同様、最終兵器の扱いに苦慮しているようです。

「しからば」
と、おもむろに口を開く人がいます。
「最終兵器を平和利用しようではないか」
と寄生虫の専門家。
「今日の社会はきれいになり過ぎた。それがそもそも免疫の働く場を奪う結果につながっている。解決策としておなかの中に寄生虫を飼ったらいかがか」
というのです。寄生虫がいる人にアレルギー性鼻炎は少ないとか。
 これはかなり知られた話になりました。

 清潔な現代社会は免疫の働く場を奪うと書きました。
 ところが現代社会には全く別の面から免疫機構を酷使するという現実があるということが最近のニューズウイーク誌に書かれています。それは先に出た「精神神経免疫学」の学者から提出された意見です。

 「精神神経免疫学」とは脳内の情報伝達物質の複雑な動きを分析し、心と神経系と免疫系の相互関係を探ろうとする分野です。

 その学者は
 「猛獣と出会ったとき、私たちの祖先はとっさに、戦うか逃げるかを決める必要があった。そのときには鼓動が速くなり、血管と筋肉が収縮し、血圧は急上昇していただろう。これがストレスだが、昔はこういう反応が起こる事態はまれだったと考えられる。かつてストレス反応は、生存のために必要だった。だが現代ではストレスが慢
性化した(現代に生きる私たちは怒りっぽい上司や情け容赦ない借金取り、乱暴なドライバーと日常的に遭遇している。朝から晩まで猛獣に出くわしているようなものだ)結果、その身体反応が健康を害し、悪くすれば命さえ奪いかねない(ディーン・オーニッシュ医学博士)」
と言うのです。

 別の学者はストレス反応から起こる諸問題を解決する一番いい方法はリラックスすることだと力説します。ニューズウイーク誌にはリラクゼーションの効果として「痛みや不整脈、不安、抑鬱、ガン、エイズの諸症状」
と書かれています。

 特殊なリラックス技法を持たなくとも、最良の方法は「いい友人」を持つことであり、「喜びや笑い」も有効だとのこと。

 もちろんそのために鍼や指圧が極めて有効であることは言うまでもないことです。

後記

 中日新聞6月14日付の「100億人に20世紀」というシリーズに敬愛する居酒屋「六文銭」のひげおやじこと三嶋寛さんのことが書かれています。

 時は60年安保闘争および岸内閣退陣という激動の時代。名古屋大学哲学科学生だったひげおやじさんは愛知県の学生連盟のリーダーとしてデモやオルグ(考えを説いて運動への参加を促す)などをしていたという回顧から、その時代を浮き彫りにし、さらに会社員を辞めて居酒屋店主になった経緯や、今のインドネシアの学生と往時のご自身を見比べたりという内容です。

 誰もが、いかなる時代でも、どんな社会でも、積極的にせよ、無自覚であるにせよ、時代の奔流に抗って生きることは不可能です。ひげおやじさんが時代と社会に積極的に係わった揚げ句の充実感と虚無感がその時代を背景にして正直に吐露された好企画だと思いました。

 現在、「今池の夜の哲学者」と呼ばれる見目麗しきひげおやじさんの顔も必見。あのお顔でも味には影響しませんからご安心ください。
 「六文銭」は雑然に徹した昔風の居酒屋。酒がうまい店です。おっと、料理も褒めなければ不味いですね。
 それからホームページも必見です。

炉端酒房 六文銭(1999年 惜しまれて閉店しました。ひげおやじさんは髭を剃髪して、今のなおネット上のあちこちに鋭くユーモアのある文章を掲載されています)

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