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2011年6月22日 (水)

游氣風信 No101「下手物(ゲテモノ)あれこれ」

三島治療室便り'98,5,1


≪游々雑感≫

 食べ物の趣向には地域や個人によっていろいろな違いがあります。

 えてして人は自分の趣向に合わないものを下手物(げてもの)などと言って見下したり非難したり避けたりしますがこれはいけません。なぜなら同じ日本でも北海道から沖縄までいろいろな郷土料理があって、けっこう珍奇なものの存在に驚かされるからです。

 ましてや異国の食文化などに遭遇するとなおさらうろたえることが多いようですがそれを非難しては逆にこちらの文化程度の低さを露呈することになります。

 食習慣の違いは土地柄だけではなく、家庭の味、いわゆる「おふくろの味」に代表される家庭環境や生活習慣、個人の体験や生まれつきの性質からも大いに異なることは誰もが経験することでしょう。

 今月は実体験に基づいて、できるだけ正確に、真実に近い形でゲテモノあれこれを紹介します。一片たりとも脚色して無いことを明言します。

蝮と鮫(マムシとサメ)

 わたしが在宅ケアに訪問するTさんは秋田の山村の出身。難病と脳卒中で10年来寝たきりながらも実に明るいの50代半ばの男性です。

 テレビに動物などが写るとしばしば
「あ、あれ食ったごどある。旨いよぉ」
と言われます。
 画面にはニョロニョロと蛇などが登場中。

「山仕事さ、すでるどねぇ、マムシが出はってぐるがら、

  『おーい、御馳走さ出てきたぞー』

とみんな呼ばって捕まえでさ、皮をネ、ごやってビーと裂いでさ、串刺すにすて焼いで食うど、これが旨えんだなあ。こたえられんよー。
あー、もいっぺんでいいがら、マムシさ食いでーなー」

「何かタレつけて食べるの?」
「うんにゃ、なーんもつけんでも旨いよ。刺し身もええよ」
「どんな味?」
「どんなと言ってもなー。食ったごとねー人さ、教えるのむづがし。
ウナギかな、ウサギがな、いやいや、やっぱり蛇の味だな」
「ウサギも食べたことあるの?」
「あるよ、もぢろん。山仕事すでるとピョンピョン出はってぐるがら、

  『おーい、御馳走さ出てきたぞー』

とみんなを呼ばってさ、捕まえでさ、皮さ、ごやってビーと裂いで、焼いで食うど旨いよー」
「・・・・・・」

 かくのごとくにTさんの胃袋は動物図鑑さながら、何でも収まるようです。

 きつい仕事をしながらTさんを甲斐甲斐しく介護しているのが奥さんのS子さん。
広島県の山村出身。

「私らの里は広島の山奥じゃけーね、フカを食うんよ」
「フカってサメのことでしょ」
「うちらはフカゆうとった」
「広島と島根の県境の庄原から三次の辺りは全国でも珍しくサメを食べるんだよね。サメやエイは排尿器官をもたないからアンモニアが全身に貯まるので身が腐りにくいそうだよ。
 だから交通機関の発達していない時代から海から遠い山奥で珍重されたんだ。その代わりアンモニアが全身に染み込んでいて臭い」
「サメみでえな気持ぢ悪いもん食えるがっ。おっかあはろぐなもん食はってねえな」
「あんたこそ子供の頃からマムシやムカデばっかり食べとってでしょうが。わたしらそげなゲテモン食べたことないけえね」
「馬鹿こぐでねえ。マムシさゲテモンでねえ。それにそっだらムカデなんが食ったごとねえど。噛まれっと痛えったらねえんだがら」

「僕も広島の生まれでしょう。小学校の頃、おふくろの田舎へ帰省したらサメだのエイだのの料理を食べたよ。刺し身も食べたことがある」
「先生、そんなゲテモン、うまがったが?」
「はっきり覚えてないけど、エイの刺し身はネチャネチャして気持ち悪かった」
「ほれみれ。サメだらエイだら人様の食えだもんぢゃねえわ」
「あんたこそ。マムシの刺し身食うとって人がなんばゆうとるね。素人にはエイの刺し身は無理じゃわ。最初は火を通さないといけん」
「カマボコやチクワはサメの身を使用してるからみんな知らずにサメを食べてるよ」
「ほれごらん、あんただってフカ食べちょるんよ」

 Tさん宅では秋田弁と広島弁に囲まれて頭がぐらぐらする会話です。
 30年来の夫婦にしてからこの有り様ですから食の好みの難しさ。

山椒魚(サンショウウオ)

「あ、先生、これ尾瀬のお土産」
 調整にみえた近所の40歳ばかりの女性が小さな紙の包みを差し出しました。
「また尾瀬に行かれたんですか。お土産いつもありがとう。これは何ですか・・・ゲ、イモリの黒焼き!?」
「違いますよ。これ、よく見てください。山椒魚の干物」
「山椒魚って、はんざきのことでしょ。もっと大きいかと・・・」
「あれは大山椒魚。これは普通の山椒魚」
「これがね。イモリちょっと大きいぐらいですね。指まできちんと揃ってる。あ、歯も。標本ですか」
「いーえ、食べるの。火で炙(あぶ)って。酒のつまみに最高!」
「どうやって」
「頭からそのままガリガリと・・。これが楽しみで尾瀬に行くようなものですよ、私、オホホホホ」
「・・・・・・・」
 
蝗(イナゴ)

娘「おとうさん、なにこれ」
父「ああ、それはエビだよ。美味しいから食べてごらん」
娘「ほんと?・・・固くて変な味」
父「そうかなあ」
娘「(しげしげと見て)おとうさん、このエビ、バッタの顔してるよ」
父「クスクスクス」
娘「騙したな。何これ」
父「イナゴだよ。田舎では田圃に一杯いるから捕ってきて脚もいで炒めて食べる」
娘「もう大人なんか、絶対に信用するもんか」
 子供にウソをつくのはやめましょう。

西瓜と赤茄子(スイカとトマト)の法則

 いつも忘れた頃にやって来る妙齢のサクソフォン奏者。
「やあ、久しぶり。元気だったの」
「はい、ちょっといろいろあったんですけど、芸大の先輩に相談して何とか乗り越えました」
「先輩もサックスの人ですか」
「いえ、彼は作曲のほうです。先輩はおもしろんですよ、スイカとトマトが全く食べられないんです」
「ほう、スイカとトマトが食べられない。ひょっとして、彼、すごく信頼のおけるいい人ではありませんか」
「はい、そうです。どうしてお分かりですか」
「以前から発見していた“宇宙の法則”なのですが、スイカとトマトが嫌いな人に絶対悪い人はいない。
それどころか善人が多いという決定的事実に気づいたのです」
「本当ですか。実は先輩もそう言ってたんです」
「本当です。スイカだけではだめ。トマトだけでもだめ。スイカとトマトの両方が嫌いな人に善人が多いのです。これは真実かつ法則です」
「なぜでしょうか」
「なぜなら、僕も嫌いだからです」
 これは正真正銘の真実です。

 かくして人々はその人なりのゲテモノを避けつつ、他人のゲテモノをけなしつつ、食生活を楽しんでいるのです。

 本日登場のゲテモノたちを詠んだ名句を巻尾に紹介して口直しとしていただきましょう。

蝮(夏)
曇天や蝮生き居る罎の中 芥川龍之介

鮫(冬)
日輪のかがよふ潮の鮫をあぐ 水原秋桜子

山椒魚(夏)
山椒魚怒り悲しむかたちなす 山本一雄

蝗(秋)
生きている音のいなごの紙袋 北 山河

赤茄子(夏)
虹たつやとりどり熟れしトマト園 石田波郷

西瓜(秋)
いくたびか刃をあてて見て西瓜切る 山口波津女

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