« 游氣風信 No66「逢うは別れの(指圧の縁)」 | トップページ | 游氣風信 No68「宮沢賢治生誕百年」 »

2011年2月22日 (火)

游氣風信 No67「マザーグース 生命の鎖」

游氣風信 No67「マザーグース 生命の鎖」

三島治療室便り'95,7,1

 

三島広志

E-mail h-mishima@nifty.com

http://homepage3.nifty.com/yukijuku/ 


《游々雑感》

マザーグース

 朝日新聞の日曜版に「おはよう!マザーグース」という連載があります。著者は鷲津
名都江さんという大学の先生。

 マザーグースとはイギリスの人達が子供のころから親しんでいる、いわば日本の童歌
のようなものです。イギリス伝承童謡を総称してマザーグースと呼ぶようです。

 北原白秋が翻訳した大正時代には北米にマザーグースというおばあさんがいて、その
孫のために創作したものを彼女の養子が出版したという俗説が流布し広く信じられてい
たそうですが、今日ではマザーグースおばさんの存在も出版されたという本も実在が証
明されたいません。

 わたしは遠き少年時代、イギリスの童話作家ヒュー・ロフティングのドリトル先生シ
リーズが大好きで、とりわけ「ドリトル先生航海記」(井伏鱒二訳)は何度繰り返して
読んだか分かりません。

 物語のドリトル先生は世界で唯一、動物語が話せる博物学者であり、冒険家であり、
人間の医者であり、動物の医者でもあるという小太りのやさしい人物です。
 原作は「DOCTOR DOLITTLE」。「ドクター・ドゥーリトル」と読んで、意味は薮医者

いうものらしいのです。岩波書店から訳されているのは全て井伏鱒二のもので、全十二
巻になります。順に「アフリカゆき」「航海記」「郵便局」「サーカス」「動物園」「
キャラバン」「月からの使い」「月へゆく」「月から帰る」「秘密の湖」「緑のカナリ
ア」「楽
しい家」となります。

 わたしはしばらくの間、ドリトル先生は実在した人物だと思っていましたし、イギリ
スには先生が住むという「沼のほとりのパドルビー」という町も本当にあると信じてい
ました。さらには、物語りに登場する自分と年の違わないドリトル先生の助手トーマス
・スタビンズ(10歳位)が本当にうらやましかったものでした。

 その航海記の中に次のくだりがあります。
 ドリトル先生が行方不明になった偉大なるアメリカ・インディアンの博物学者ロング
・アローの居場所を探しているときのことです。先生の一行が唯一の手掛かりであるか
ぶとむしの後を根気よくついて歩いていましたら、アフリカにあるジョリキンキ王国の
王子カアブウブウ・バンポ(もちろん創作)が退屈して変な唄を歌うのです。

  テントウムシ、テントウムシ、おまえのお家に飛んでゆけ。
  おまえのお家は焼けちゃって、おまえの子どもは・・・。

 これがマザーグースの中の歌と知るのはずっと後になってからでした。北原白秋の訳
で紹介しますと

  てんとうむし、てんとうむし、
  はよう家へかえれ、
  おまえの家ゃ火事だ。
  みんな子供がやけしんだ。
  むすめのアンヌがたったひとり、ブッジングのなべの下に
  つんぐりむんぐりもぐった。

 童謡とか童話というのは結構残酷なものです。また、残酷なものを子供は好むのでし
ょう。日本の「かちかち山」でも、タヌキに火をつけて大やけどさせたり、泥船で溺れ
させたりしますし、なにより、タヌキがいつも仲間がタヌキ汁で食べられる敵として、
お婆さんを「ばば汁」にして食べるなどという話も伝わっています。

 ドリトル先生に戻りましょう。「ドリトル先生のサーカス」という巻ではドリトル先
生がマザーグースの人気者ハンプティ・ダンプティにされてしまいます。

 それで先生は、やぐらの上によじのぼってゆきましたが、(中略)そのサーカス団長
は、
いきなりまた人だかりの方に向きなおって、先生のほうへ腕を振りながらさけびました
。 「さて、紳士淑女諸君、この人物は、ほんもののズングリムックリ・デッカクであ
ります。王さまのおそばの人たちをさんざんこまらせた人物であることは、御承知でも
ありましょう。木戸銭を払って、おはいりなさい!さあ、いらっしゃい、こやつが壁か
ら落ちるのをごらんください!」

 欄外にズングリムックリ・デッカクの(注)として
 「イギリスの有名な童唄集「マザー・グース」の中に出てくるハンプティ・ダンプテ
ィのこと。壁から落ちて、卵のようにつぶれてしまったと、うたわれている。」
と説明がありましたが、当時はこれが何のことやら全く分かりませんでした。
 その正体を知ったのはずっと後にルーイス・キャロルの「鏡の国のアリス」を読んだ
時です。

アリスが出会ったハンプティ・ダンプティは狭いへいのてっぺんに、トルコ人みたい
に足を組んで腰掛けていました。そこで、アリスは歌を暗唱します。

  ハンプティ・ダンプティ、へいの上
  ハンプティ・ダンプティ、ずっでんどう、
  王さまの馬と兵隊みんなでも
  ハンプティ・ダンプティ、もとの場所に返すわけにはまいらない

 ハンプティ・ダンプティを日本語に置き換えるとズングリ・ムックリという意味らし
いのですが、実はこれは卵の謎かけなのです。へいから落ちた卵は王様の家来だっても
とに戻すわけにはいかないという意味が隠されています。 
 また、朝日新聞連載中の文によれば、実在したイギリスの人物という説もあるようで
すが詳細は忘れました。

 イギリスの本を読むときはこのようにマザーグースがやたらとちりばめられていて、
その方面の教養がないと読めない訳ですね。有名なシャーロック・ホームズも例外では
ありません。ですから、日本訳されたものには、やたらと(注)が必要になるのですね

 マザーグースに関してはこんな経験があります。
 アメリカの若い奥さんに足指を一本ずつマッサージする方法を教えましたら、唐突に
何かを唱え出しました。興味をもったので書いてもらいました。

  One little pigy went to the market
One little pigy stayed at home
One little pigy had roast beef
One little pigy had none
One little pigy cried “Wee,Wee,Wee!”
All the way home.

 これは手持ちの本では「This little pig」となっています。白秋の訳では

このぶた、ちびすけ
     (五つの指のさきをつついてうたう)

  このぶた、ちびすけ、市場へまいった。
  このぶた、ちびすけ、お留守番でござる。
  このぶた、ちびすけ、、牛肉あぶった。
  このぶた、ちびすけ、なァんにももたなんだ。
  このぶた、ちびすけ、ういういうい。
   いっしょにお家へ、よいとこらしょ。

 いかに北原白秋といえども、大正時代の訳は古すぎて、おもしろくないですね。原語
のおもしろさを伝えようという気迫は十分うかがえますが。

 歌の最初に書かれているようにこれはゲームです。指先をつつきながら歌うのです。
彼女は子供の頃、お母さんからこの歌を歌いながら足の指を一本ずつマッサージしても
らって、最後にウィウィウィ(豚の鳴き声)と言いながら全身をくすぐってもらってか
ら眠ったと言うのです。欧米人の親子の触れ合いのための歌なのですね。日本ですとさ
しずめ「い
っぽんばーし、こーちょこちょ」でしょうか。
 しかし、彼女はこれがマザーグースであることは知りませんでした。むしろ、わたし
がそのことをたまたま知っていたことに大変驚いたようでした。

生命の鎖

 アメリカ人は世界で一番高価なおしっこをしていると言われたのは今から15年くらい
前のことになるでしょうか。
 ノーベル賞を2回受賞したライナス・ポーリング博士が、ビタミンCの大量摂取が風

に効くと唱えたため、多くの人がビタミンCを摂取し、そのほとんどが排泄されている
と考えられたからです。

 それまでは、ビタミンは過剰にならず、不足にせずという栄養学的な考え方をされて
いたのですが、遺伝子が発見されてから栄養学が大転換しました。従来のビタミンに対
する見方は体の機能の調整とされていたのが、今日では遺伝子情報を正しく引き出すた
めに必要だということ、必要量の固体差が非常に大きいこと、多量に取ると薬としての
効果があることなどが解明され、とりわけ、今日、新聞や雑誌などでも目にするように
、老化や慢性病、ガン、心筋梗塞などに大きな影響を与える活性酸素が注目されてから
は、ビタミンにその活性酸素(毒性のある酸素)の害を減らす効果が期待され出したの
です。そのためには、従来の厚生省のいう所要量では全く足りないこともはっきりして
きました。

 鹿児島大学医学部では、アトピー性皮膚炎の原因を免疫異常と活性酸素とみて、代謝
能力を越えているとみられる植物性脂肪や砂糖、たまご、牛乳の摂取を控え、魚や野菜
を多く食べ、炎症の原因とされる活性酸素を除去する抗酸化作用のあるビタミンC・E
、ベータ・カロチン、ビオチンなどの投与で200例ほぼ全員に効果を上げていると読売
新聞に記
事が出ていました(平成7年7月15日)。ステロイド投与で効かなかった患者に対しても
顕著な効果があったと報告されています。

 ところが、体にいいからとビタミンCだけを大量にとるとこれも活性酸素を生じるの
で、
バランスよく十分な量をとるべきだという学者もいます。つまり、ある種類を突出して
取っ
ても、ひとつの栄養素が不足したら、意味がないというのです。

 人間には約40種類の栄養素がくまなく必要で、ひとつでも不足したら命の維持ができ
なくなります。これを「生命の鎖」と呼びます。アメリカのウイリアムス博士などがこ
の提唱者ですが、その著書「からだの機能を開発する」(中央公論)では、独特の円形
グラフで各食物の栄養が一目で分かるように示されています。
 これら約40の栄養素には重要性の順位がなく、全体でひとつのチームワークをなして
いると考えられます。どれかひとつの栄養素が切れても用をなさなくなるわけで、その
関係はまさに鎖のひとつひとつの輪なのです。

 ウイリアムス博士のグラフにはアミノ酸が8種、ビタミンが15種、ミネラルが16種の39
の輪が書かれています。
 いろいろな食品の栄養バランスが書かれているのですが、3つの栄養に富んだ食品があ
ります。ミネラルなら牡蛎(カキ)、ビタミンならレバー、アミノ酸は卵黄、それぞれ
が100点満点の食べ物だというのです。しかし、いずれも公害の影響を受けやすい点でも共
通していますね。やはり良かれ悪しかれ、栄養素つまり化学物質が蓄積しやすい食品な
のでしょう。
 また、無精白の米(玄米)や麦も理想に近い食品とされていますが、これも農薬の残
留も多いものです。

 これらのグラフを参考に各食品の過剰な部分と足りない部分を補い合ってメニューを
考えれば栄養的にはバランスがとれるというのがウイリアムス博士の提案です。

 ところが現実にはそれはとても困難なので、同博士は著書「健康になるための栄養早
わかり」ではマルチ・ビタミン/ミネラルのサプリメント(総合栄養補助食品)を保険
の意味でとることで、ガンをはじめとする取り返しのつかない疾病の危険から多くの人
が逃れ得ると提唱しておられます。

 そのためには理想のバランスが必要ですが、それに近いものがアメリカで市販され出
したのが今から約30年前。その後起こった変化として顕著なのが心臓病の減少で、ビタ
ミンCの売れ行きと心臓病の発生は反比例しているそうです。また、胃ガンにおいてもC
の多量摂取が減少させているという報告がハーバード大学医学部からなされています。
(これには冷蔵庫が広まって塩分摂取が減ったことを上げる学者もいます。)

 あくまで、保険の意味ですから、絶対病気にならないという保証はありませんが、栄
養補助食品である程度栄養の底上げして、あとは美味しいものを楽しみながらいただく
という食生活もよろしいのではないでしょうか。
 同じ料理を食べても、例えば、一人っ子が寂しい夕飯を取るのと、楽しく家族たちと
語らいながら食べるのでは吸収率は異なってくることは間違いないでしょう。でしたら
、あれが体にいいとか悪いとかあまり神経質に考えずに、保険としてちょっと栄養食品
を食べて、あとは食べることを楽しむのも一つの行き方だと思うのです。

 食べ物には
栄養
嗜好
機能
の3つがあります。機能とは繊維が便通をよくするというような類いです。栄養だけでも
嗜好だけでもよくありません。栄養素のバランスだけでなく、こちらのバランスも大切
ですね。

 生命の鎖についてあなたもお考えになってはいかがですか。

参考 いま、家庭料理をとりもどすには 丸元淑生 中公文庫


|

« 游氣風信 No66「逢うは別れの(指圧の縁)」 | トップページ | 游氣風信 No68「宮沢賢治生誕百年」 »

游氣風信」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 游氣風信 No67「マザーグース 生命の鎖」:

« 游氣風信 No66「逢うは別れの(指圧の縁)」 | トップページ | 游氣風信 No68「宮沢賢治生誕百年」 »