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2011年1月22日 (土)

游氣風信 No6・7「障害者Kさん 食中毒」

游氣風信 No6・7「障害者Kさん 食中毒」

三島治療室便り6・7合併号

 

三島広志

E-mail h-mishima@nifty.com

http://homepage3.nifty.com/yukijuku/

≪游々雑感≫

 K市で長年餅屋さんを自営してこられたKさんは、今年62歳になる痩躯の美丈夫ですが、餅搗きという重労働のせいか、頚椎の損傷で両腕・両脚が麻痺し、室内歩行がやっとというほどの重度の障害をお持ちです。

 Kさんのお店では、戦後の物資の無いときから苦労して砂糖を調達し、サッカリンではない本当の大福餅を提供して来ました。また、餅米の吟味や搗き方がうまいせいか、奥さんの真心こもった手返しのためか、他の餅屋より一際美味しいと評判を得て、数年前廃業するまで盛業につぐ盛業でした。
 町内の顔ききで世話好きなKさんは、消防団や町内会、選挙の時など先頭に立って動き回り、人望厚く、またカラオケのマイクを取っては美声と見事な節回しで聴衆に感涙を滴らせたということです。(但し、本人談)

 そんなKさんが体の不調を感じたのは今から5~6年前です。両手がしびれ動きが悪く足の運びも頼りなくなりました。
 医者に診てもらうと、「中気のようだ。」ということで、リハビリのために下呂の温泉病院に入院。しかし、そこでは頚椎損傷の診断でした。
 中気(脳出血・脳血栓・脳梗塞)の場合、まず間違いなく片側の腕や脚が麻痺します。すなわち右手の麻痺なら脚も右側の麻痺ということです。
 脊髄が腰でやられますと両脚の麻痺、首でやられると両側の腕と脚が麻痺します。
しかし、脳の血管がやられた時は、ほとんど片側に麻痺が出現します。
Kさんは四肢の麻痺ですから、脳の血管の問題ではなく、頚椎の問題であることが想像出来ます。

 Kさんは東京のM病院で手術を受けることになりました。
 根っからのドラキチ(プロ野球中日ドラゴンズの大ファン)のKさんは、心ならずも巨人ファンのドクターの執刀により手術。見事成功。しかし、残念ながら運動機能の回復はほとんど見られませんでした。むしろ進行を止めることができたことで大満足という見解でKさんとドクターの意見が一致しました。
 東京の病院のため、自分以外全て巨人ファン、しかも折り悪しく巨人が優勝してしまいそうという不運にもめげず、明るい性格のKさんは、中日が買った時は看護婦や医師、同室の患者のために寿司の出前を配るという気配りまでして、術後の痛みと地方出身者の悲哀を乗り越えました。
 けれども悔しいことに巨人ファンのドクターから寿司を振舞ってもらう機会の方が多いため、一人高層の病室から東京の街を見下ろし、孤独に耐えてきたことでしょう。
その怨念は翌年星野中日が優勝することで報われました。Kさんは手術を1年遅らせるべきであったと後悔しています。

 今日でもKさんの機能にあまり進歩はなく、右大腿部の痛みと冷えに眠られぬ夜もありますが、一日置きに訪問治療に行くわたしに対し、いつもにこやかに混じり気のない純粋な名古屋弁で話しかけて下さいます。

 今秋、長男氏が晴れて結婚式を挙げられます。歌の得意なKさんは披露宴で何を歌うか今から思案して、そろそろ発声練習でもしようかと心密かに決意しています。しかし奥さんからは「お父さん、ええかげんにしときゃぁよ。」とたしなめられるに決まっていますから、思い切った声で練習出来ないのが目下の悩みです。
 昔から人前に出て歌いたがるKさんの袖口は、いつも奥さんに引っ張られていたのです。披露宴で歌わせてもらえるかどうか・・・。

 Kさんのように障害に負けず、明るく暮らしている人に出会うとホッとします。自分も何時障害者になるか分かりません。実際誰だって綱渡りのように生きているだけです。それにさえ気付かずに生きていることがあります。そんな自分にとってKさんは生きたお手本として心の支えになってくださるのです。

 披露宴の歌以上にKさんにとっての気掛かりは今年のドラゴンズの不甲斐なさです。
郭が小松がもう少し頑張ってくれたら・・・Kさんの愁眉も開きっ放しになることでしょう。

 今でも時々Kさん宅には電話や直接来店してのお餅の注文があります。休業して数年にもなるというのにたいしたものです。いかに店の評判が広い範囲にまで知れ渡っていたかの証拠です。近所の人達は休業していることを知っていますから。


<折々の健康>
食中毒
 梅雨に入りました。蒸し暑く憂鬱な日が続きます。それだけでなくこれから10月までは食中毒の発生しやすい季節でもあります。そこで今月は食中毒を取り上げます。

食中毒とは?
 一般に食べ物を摂取することで起こる急激な健康障害を意味します。
A 細菌性食中毒
 a 感染型(腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、病原大腸菌など)
    食品中で菌が大量に増殖し、さらに小腸で増加、胃腸炎型の症状(吐き気、腹痛、下痢など)が起こる。
 b 毒素型(ブドウ球菌、ボツリヌス菌)
    病原菌が食品中で産出した毒素による。
    症状は一般に胃腸炎型だがボツリヌス菌のように中枢神経系の麻痺(ものが二重に見える、まぶたが下がる、ものが飲み込めない、うまく喋られない、稀に呼吸困難など)を表すこともある。

B 自然毒性食中毒
 a 植物性─→毒キノコ、ジャガ芋の芽など
b 動物性─→フグなど

C 化学物質性食中毒
ヒ素、鉛、水銀、錫などの金属
 農薬、除草剤、殺鼠剤、無許可の食品添加物など

D アレルギー様食中毒
 魚介類の干物(ヒスタミンの蓄積)

今回取り上げるのは、細菌性食中毒

中毒を起こしやすい食品
 1位 魚介類とその加工品(ちくわ、かまぼこなど)
 2位 野菜類とその加工品(豆腐、豆の煮付けなど)
 3位 穀類とその加工品(おにぎりなど)
 以下、菓子類、肉類、卵類、乳類となる。

菌の中では
 1位 腸炎ビブリオ(50%)
 2位 サルモネラ菌(15%)

食中毒の症状
 1 胃腸炎型─→発熱、嘔吐、腹痛、下痢
 2 疫痢型─→発熱、嘔吐、痙攣、意識混濁
 3 コレラ型─→嘔吐、大量の下痢による脱水症状
 4 赤痢類似型─→下痢便が膿粘血便になる

同じ菌に冒されても、大人は胃腸炎型が多いが、子供はあとの3種が多い。

食中毒の予防
1 調理人の衛生
  丁寧な手洗いの励行。手が化膿している人は要注意。先程のKさんの話では、以前静岡で大福餅から食中毒が大発生。原因は製造者の手の化膿からブドウ球菌が混入したためとのこと。
2 調理用具の衛生
  まな板、庖丁、ふきん、食器類の熱湯消毒および日光消毒。肉や魚介類を調理した後、そのまな板から菌がサラダなどに移ることがある。
3 ネズミや害虫の駆除
  少なくなったとはいえ、油断は禁物。
4 細菌を繁殖させない
  購入した食品は速やかに調理し、調理後は時間を置かずにすぐに食べ、食べ残しは捨てるか、冷蔵庫にいれる。しかし、冷蔵庫の過信は禁物。
5 滅菌
  サルモネラ菌、病原大腸菌、腸炎ビブリオなどの感染型は加熱で予防できる。
  しかし、ブドウ球菌が産出した毒素は加熱しても防ぐことは不可能。ボツリヌス菌の毒は熱に弱い。
6 危険な食品
  腸炎ビブリオ・・・夏場の生魚
  ブドウ球菌・・・製造後時間が経過したおにぎりや弁当。(市販のものは殺菌剤がたっぷり添加してある。これを安全ととらえるか、危険と感じるかはその人の持つ価値観と状況が決定する。)
7 五感はあてにならない
  食べ物の色、匂い、味の変化がなくても、中毒を起こすだけの菌が増殖していることもある。疑わしきは捨てる。

《気をつけろ! もったいないが事故のもと!》
贅沢な時代ではあります。

<今月の詩歌>

夏の風山よりきたり三百の牧の若馬耳ふかれけり       与謝野晶子

明治30年代、女性の感情を高らかに歌い上げることで、男尊女卑の因習に風穴を貫通させた晶子。大胆に詠んだ奔放な恋の歌が有名だが、雑誌「中学時代」には、このような少年の感性を健やかに伸びやかに発達させるような歌も発表している。
青い夏山の裾に広がる牧場。何百頭もの若馬の耳がいっせいに風にふかれ、きらめく。
作者はさわやかさを表現するために馬の耳をヒラヒラと風に吹かせたのではないかと思うほど、素材の選択が活きている。それをさらに際立たせるリズム。
ここには現代短歌が見失った深く清々しい息吹がある。

<後記>
 プロ野球の外人選手は梅雨で調子を狂わせてしまいます。アメリカにはこんなにひ
どい季節は無いようです。頭の中までカビをが生えないようにしなくては・・・。

(游)

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