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2011年1月23日 (日)

游氣風信 No18「俳句という遊び」

游氣風信 No18「俳句という遊び」

三島治療室便り'91,6,1

 

三島広志

E-mail h-mishima@nifty.com

http://homepage3.nifty.com/yukijuku/


<気楽図書館>

俳句という遊び ─句会の空間─
小林恭二著 岩波新書 \580

 この本、あの岩波新書だからインテリぶって堅苦しいと敬遠される方もあるでしょう。ところが最近の岩波新書は一部インテリ層が怒っているほど内容が優しく、実用書的な本も出されるようになりつつあり、私ごときの凡俗な頭にも読める本が出版されているのです。早い話、この頃は難しい本はホーキングの宇宙論のようにファッショ
ンにならないと売れないのです。(ホーキング博士はファッションではありません。
博士の本を読むことがファッションになっているのです。)
 天下の岩波新書といえども時流には逆らえず、売れ筋の本を出版せざるをえないのが現状です。でもこれはとても良いことだと思います。人類の知を一部が独占する時代は終わらなければなりません。

 この「俳句という遊び」もそんな訳で岩波新書としては極めて軽く、楽しくユーモア小説ののりで書かれています。しかし、文章は優しいとはいえそこは岩波新書。質的には決して落とすことなく、特に俳句の好きな人には当代一流の俳人たちと句会に参加し、一緒に選句(いい句を選ぶ)する行程を一種サスペンスのごとく楽しむこと
が可能です。また、俳句を知らない人にも俳句の楽しさは十分伝わってくるでしょう。
現代俳句史の勉強もできます。

 俳句にはいろいろな流派があり、大きくは伝統派と前衛派に二分出来ます。この両者、時に近親憎悪的対立を生み、その相克の中から新たな俳句を輩出し続けてきたという歴史が繰り返されています。
 伝統派は有季定型(五七五と季語。一般に俳句とはこれを指す。)と自然の持つ魅力を俳句らしく表現しようという立場を死守する立場です。
 前衛派はそれにこだわらないでまず言葉の自立(純粋詩語)と普遍化(伝達)という言語そのものの持つ矛盾と、今という<時代>に対峙します(五七五だけで季語はいらないとか、五七五もいらない自由律とかいろいろある。今人気の山頭火は五七五も季語もどちらにもこだわらない。こだわるのは表現に対してのみ)。
 協会もそれぞれ俳人協会、現代俳句協会と分裂しています。

 この本はその流派間の壁を吹き飛ばして、著名な俳人老若中堅織り交ぜて8名が一同に会し句会を開いたその実況中継を、俳句の歴史や参加者のプロフィールを挿入しつつ楽しく臨場感一杯に書かれたものです。著者は作家で自らも俳人の小林恭二。

 参加者は以下の面々。
 俳句界の大御所の《飯田龍太》。大正9年生まれ。「をりとりてはらりとおもきすすきかな」で有名な飯田蛇笏の息子。代表作「大寒の一戸もかくれなき故郷」。

前衛派で若者の信頼厚い《三橋敏雄》。大正9年生まれ。代表作「いっせいに柱の燃ゆる都かな」。以前わたしは先代の「俳句研究」という総合誌の五十句競詠に応募して、佳作第3席(随分大勢選ばれます)に選ばれたことがありましたがその選者が三橋氏でした。

 《安井浩司》。昭和11年生まれ。代表作「二階より地のひるがおを吹く友や」。この方にも「俳句研究」の投句欄で時々選んでもらいました。

 《高橋睦郎》。昭和12年生まれ。読売文学賞受賞。氏は詩人としてのほうが著名です。代表作「遅き日のまぼろしなりし水ぐるま」

 《坪内稔典》。文学評論家。短大助教授。昭和19年生まれ。代表作「三月の甘納豆のうふふふふ」。人を食ったような俳句ですが、発表当時大変に話題になりました。昔「現代俳句」今「船団」という同人誌を発行しています。「現代俳句」後期と「船団」初期にはわたしも参加していて作品を発表したこともあります。

 《小沢實》。短大講師。昭和31年生まれ。代表作「ふはふはのふくろふの子のふかれをり」。

 《田中裕明》。昭和34年生まれ。23歳の若さで角川俳句賞(小説の芥川賞に値する)受賞。代表作「靴脱いで久濶の露涼しけれ」。

 《岸本尚毅》。昭和36年生まれ。代表作「手をつけて海のつめたき桜かな」。俳句のうまさで若手屈指の作り手といわれています。

 句会は題に基づいて作る「題詠」と、目に触れたものを自由に俳句に仕立てる「囑目(しょくもく)」。さていかなる結果にあいなりますや、まずは読んでのお楽しみです。

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