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2011年1月23日 (日)

游氣風信 No10「続ぎっくり腰」

游氣風信 No10「続ぎっくり腰」

三島治療室便り'90,10,1

 

三島広志

E-mail h-mishima@nifty.com

http://homepage3.nifty.com/yukijuku/

<折々の健康>

続ギックリ腰
 前回ギックリ腰の事をかいた後、週刊誌を読んでいたら、プロレスラーの藤波辰巳選手がギックリ腰を発端とした腰痛で420日間闘病を余儀なくされたことが書かれていました(週間文春ほか数誌に掲載)。
 私達にもなかなか参考になるので、週間文春の記事を参照しながら意見を述べたいと思います。
 藤波選手はプロレスラーですから「游氣健康便り」を読まれる人にはあまり馴染みがないでしょうが、ハンサムな顔と102キロの均整のとれた体、スピード溢れる試合運びでとても人気有る36歳のレスラーです。もっとも最近は試合が出来ないのでモーニングショーなどに美人の奥さんと時々出演していますから主婦層には結構人気
が有るようです。

 彼が腰を痛めたのは昨年6月、試合中に180キロの選手を持ち上げた時で、腰にバァーッと電気が走り腰から下にほとんど力が入らなくなったそうです。
 相手の選手は相撲から転向した150キロくらいの双葉黒(現在はプロレスラー北尾選手)を玩具扱いする怪物のようなアメリカ人で、プロレスラーとしては小柄な藤波選手では少々無理な相手です。 
 さらに怪我をする1、2年前から腰は悪く、重かったりだるかったり、立っているのもやっとということもあったようです。

 試合後、杏林大学病院でレントゲン検査を受けたところ「大きな異常はないのでしばらく様子を見ましょう。」という診断でした。
 これは今試みた診察では異常が見つからないけど、症状からするとまだ分からないから様子を見ようということです。

 しかし忙しい体ですのでそんな悠長なことはしておれないのでしょう。翌日、行きつけの整体の先生にかかります。この先生はテレビなどで時々見かける名人と誉れの高い人です。
 その先生は「これは1日か2日で治るから、心配するな」と簡単に行って、背中の骨を引っ張ったりねじったりしました。
 するととても楽になったけれど、左の足の付け根に変な痛みが残り、先生に訴えると「徐々に取れて来るだろう」ということでした。

 レスラーの痛みに耐える能力は大変なものがあります。新人はまず体作りと同時に苦痛に耐える訓練から始めます。

 したがって、藤波選手に普通人ならとても我慢出来ないような痛みがあったとしても、それが外見からは案外軽く見えたことでしょう。それで大学病院も整体の先生も軽いと判断したのではないでしょうか。

 しかし、病院側は様子を見ようという慎重で謙虚な態度に出ますが、整体の方は自分の腕自信があるのか、症状をなめたのか、背骨の矯正と称する暴力を実施してしまいました。
 しかも確かに名人らしく、症状を和らげて楽にしてしまいました。本人も試合に出たがっているのでそれに応えたのでしょう。そこに落とし穴があったのです。

 先月号に私の恩師の言葉として書いたように、「折角ギックリ腰になったのだから身体に感謝しなさい。身体が休みたいという信号に耳を貸しなさい。痛みが除れるまで無理せず休んだらどうですか。」と一歩下がって様子を見る(身体の言葉に耳を傾ける)という態度に出るべきだったのです。そしてその段階では、ボキボキバリバリ骨を鳴らす暴力的整体は絶対避けるべきでした。

 整体で一発で治った、とはよく聞く言葉です。確かに私自身、整体で患者さんの症状を即座に治したことは度々あります。私だけでなく治療を業とする者ならだれでも経験があります。
 その快感は治ったほうも、治療したほうにも忘れ難いものがあります。しかしそれは症状や体質を十分考慮した上で慎重に行われるべきものです。
 他所でそういう経験をしてきた人は、細かく検査すると面倒臭がり、強い刺激的な調整をしないと、不満を漏らします。そんな時はそういう治療をするところに行って下さいと言うことにしています。
 
 整体で楽になった翌日から、藤波選手は北海道の遠征に出掛けました。しかし10試合ぐらいして、どうしても我慢出来ないと東京に引き上げたそうです。
 その後は試合は休み、師匠のアントニオ猪木さんが参議院に立候補したので、応援に全国を駆け回りました。
 一番ひどい頃の症状は「我慢出来ないほどの極度の痛み、それが24時間絶え間無く。寝返りすら打てない。朝起きる時、膝を曲げエビのようになってうずくまり、痛み止めの座薬、痛みが多少緩んだら手摺りにつかまってトイレに行く。そして医者に行くために車に乗り込むが、くぐる動作が出来ない。灰皿を取ろうと手を伸ばすこと
も出来ない。せきもくしゃみも痛くてだめ。首も回らない。腹が一杯になると腰が圧迫されて痛い。便器できばると目から火が出る。体験ではオリゴ糖を前の晩飲んで寝るときばらなくてもいいので排便がものすごく楽。」という惨憺たる状態でした。(突然ですがここでCMです。オリゴ糖は当治療室で扱っています。)

 藤波選手が訪れた病院は整形外科が11軒、その他カイロプラクティック、整体、鍼灸、気功療法、遠隔療法、心霊治療など全国数知れず。
 整形外科では「手術をするならプロレスを辞めてからのことを考えてから。格闘技への現役復帰は不可能。」と言われ、手術以外の治療法を捜し求めそうです。
 偉い上人や有名なお寺、神社を渡り歩き、歩き過ぎでかえって悪くしたような感じとか。
 ゴルフの岡本綾子選手の腰痛を治したパパイヤエキスの先生に会い、ロッテの村田投手や巨人の吉村選手を手術した有名なロスアンジェルス・セントラル病院のジョーブ博士の診断も受けましたが、いずれも藤波選手の症状には向いていないと断念。
 ブロック注射は麻酔の注射が痛くて、一時は週に2回続けたけど良くなるまでは至らなかったようです。

藤波選手の感想
 いろいろな治療法を試しましたが、結局は『時間』ですね。人間は放っておいても自分で治す力があるんです。その意味で効果的だったのは、治癒力を高める鍼や灸です。悪化するようなこともありませんし。最初から最後まで続けています。 腰の怪我というのは安静が一番なんです。その意味では入院して牽引するのが一番いいです。
痛めた最初の一週間を安静にしていれば、僕も長引くことはなかったと思います。
 無理と言えば初期に整体に行ったのも良くなかったですね。一発で骨の髄まで治る場合もあるけど、椎間板が神経に触れていたりする神経的な腰痛には、整体は控えたほうがいいのです。一定の期間を置かずに、悪い箇所をよじったり、ひっぱたりすれば、切り傷で出血した箇所を毎日叩いているようなものです。あれだけ毎日治療を重ねれば、健康な人でも悪くなったんじゃないかなという気がしますよ。(笑)
 気功療法は心を無にして目を閉じ、足を肩幅に開いて立つのですが、痛みを我慢して立つと、体中から汗が噴き出し、身体から痛みが消えました。
 遠隔療法も効果的で、これは悪い箇所に直接触らないんです。爪先からツボを押さえていって、悪いところをほぐしとるんです。
 大事な時期なので治療法を今は絞っているんです。本来持っている人間の治癒力を高めるようなものだけですね。それで、今も続けているのは、鍼治療と心霊治療(どういうものか説明がありません・・筆者)、遠隔療法の三つです。
 今は、筋肉がようやく戻ってきているな、というところ。痛みが完全にとれたわけではありませんが、ようやく、後楽園ホールで公開スパーリング(試合形式の練習・・筆者)に遭ぎつけました。
 今の目標は、九月にリングに立つこと(後略)・・・。

筆者の感想
 プロレスラーという特殊性に関係なく、藤波選手の体験は誰にでも起こり得ることです。その点多くの人にこの闘病記はとても参考になります。

 ギックリ腰のように命に別状の無い症状の場合、焦ってやたらといじくり回さないことです。安静が何より大切です。
 安静といってもじっと寝ていろということではなく、動ける範囲で日常レベルの活動に止め、激しいスポーツや肉体を酷使する仕事は避けることです。

 普通のギックリ腰なら4日目くらいには何の治療をしなくても普段の生活には困らない程度に回復してきます(痛みは残っているものの)。
 あせって身体を治療という名目でいじめたり、痛め付けたりしないことです。
 心ある治療師ならカイロプラクティックでも鍼灸でも整体でも、症状の激しい段階では無理に矯正したり患部に強い鍼などはしないものです。 
 もっとも高い料金を頂いていますから、早く楽にして上げたいと思うのがプロ根情です。仮に仕事を離れていても、目の前に痛そうな人がいて、もしかしたら自分が何か役に立てそうだとなれば手助けしようとするのは人情です。

 私がこの道に入ったばかりの頃はついついこの親切心からのやり過ぎという失敗に随分悩んだものでした。おそらく皆そうだろうと思います。


 治療を受けた後、一人一人がその結果を十分検討することも大切です。最近になってインフォームドコンセプトなどと称して、医師と患者との間の意志の確認、話し合いが大切だと言われていますが、これは治療に対して患者側の積極的な取り組みを促すものでもあります。ただひたすら受け身だけでは駄目なのです。

 ある腰痛の友人で、人に紹介された有名な整体(私のところではありません)だからと、遠くまで足げく通っている人がいました。
 結果はどうかと尋ねましたら、行きは良いが帰りは電車の椅子にも腰掛けておれないほど痛くなると言います。
 足のまねきも悪く、地面が不安定な感じがするとも言います。整形外科へ行ってレントゲンを撮るように勧めたところ、かなり進んだ椎間板ヘルニアだと分かり、予後の悪いタイプなので手術をした例があります。

 治療の前より後のほうが症状がひどくなった場合、普通はその治療法に何か問題がある、あるいは自分に合わないと判断するはずですが、有名な先生で患者が門前市をなし、知人の紹介ともなると判断が甘くなってしまうのでしょう。
 また症状が重度であると想像すればなおさら判断は人任せにしたくなるものです。

 病気の治癒には、藤波選手が言っておられるように「時間」が必要です。病気は治療法や治療師、医師が治すのでなく、各人の命(自然治癒力)が治すのです。身体(=自然)に任せるしかないのです。そのためには時間がいるのです。
 治療とは自然治癒力がもっともうまく働ける環境作りだと知って下さい。

 その上で、必ず治るという強い意志と、治ったら○○をするんだという目標をしっかり持ち続けることです。藤波選手が9月にはリングに立つと目標を定めたように、自分なりの身近な目標を設定すること。それが自然治癒力をますます活性化することになるのです。

<今月の詩歌>

白き霧ながるる夜の草の園に自転車はほそきつばさ濡れたり  高野公彦

 昭和16年生まれ。事象の内面、心の深奥を歌って随一の現代歌人。若手の間で人気抜群。私も直接手紙を出して歌集を頼んだが既に完売。

夕冷えの銀杏を抱けば幹の中あなしづかなる滝下りをり 同

 淡々とと醒めた孤独感。それはまた現代に生きるすべての人の心の底に漂う。

(游)

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