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2006年8月

2006年8月22日 (火)

ハリと甲子園 斎藤投手の力投

甲子園の夏が終りました。

今年は1969年、第51回大会の三沢対松山商戦以来37年ぶりの引き分け再試合ということで大いに盛り上がったようです。しかも早稲田実業の斎藤投手が涼しい顔と爽やかな投球で大人気。女性たちは老いも若きも黄色い歓声を上げています。丁寧に畳んだサックスブルーのハンカチで汗を拭う姿も美しくハンカチ王子などと呼ばれ、ハンカチメーカーまで話題になっているのは愛嬌でしょうか。

さて、鍼灸師としてうれしい記事もありました。

スポニチ 8月21日

斎藤は今センバツ2回戦で関西と延長15回引き分けの死闘を演じた。再試合を制したが、3連投となった準々決勝の横浜戦で3回6失点KO。スタミナ不足を痛感し、ウエートトレーニングと走り込みで下半身を鍛えた。右足にタメをつくるフォームに改造して最後の夏に臨んだ。今大会通算830球、この3日間で435球を放った。疲労がないわけがない。試合後は30分間のハリ治療。握手もできないほど握力はなくなっている。それでも宿舎では焼き肉、焼き鳥に丼ご飯もしっかり平らげて再戦に備えた。

スポーツ報知 8月22日

 疲れた。暑い。苦しい…端正なマスクの下に弱音を押し隠し、仲間を信じて投げ続けた。前日は何度か「腕がちぎれそう」とひとり言のようにつぶやいていたが、気力と精神力で自分自身を支えた。宿舎に帰ってから、大会期間中、持ち込んでいる1台約400万円の高気圧高濃度酸素装置、通称「ベッカム・カプセル」に1時間半入り、マッサージ、ハリ治療と考えられるケアを施した。この日の朝も40分間、ベッカム・カプセルに身を沈め、ギリギリまで疲労回復に努めた。「西東京大会の時から、ずっと仲間を信じて、部員全員を信じてマウンドを守ってきました」陰になり、支えてくれた人たちへの熱い思いが、疲れているはずの体を軽くした。声援を送ってくれたアルプス席にあいさつに向かう際には、感極まって涙を流した。

中日新聞 8月21日夕刊

斎藤投手は四日連続の登板。はり治療を受けたといい「体は軽くて疲れはない。自分でも驚いている。勝って校歌を歌っている自分を思い浮べて寝た」と笑顔で話した。

斎藤投手の力投の陰にハリやマッサージが貢献していたのです。これは鍼灸師の一人としてうれしい事実でした。

記事の中にベッカム・カプセルのことが書かれています。これは高気圧高濃度酸素装置。大きな病院などに置かれていた医療機器です。前のワールドカップ直前に骨折したベッカムがこの購入して治癒を早め話題になりました。

最近の酸素ブームでデパートなどの癒しスポットに置かれています。疲労回復にいいという触れ込みで。ただし、専門家からは高濃度酸素の使用は体内に活性酸素(毒性の酸素)が必要以上に発生するので、抗酸素の栄養素の補給が不可欠だといいます。

つまり酸素をもって新陳代謝を早めるのですから、老化も早まるということ。蝋燭に酸素を吹きかければ明るく輝くでしょうが、燃え尽きるのも早いですね。それと同じことが体内でも起きるわけです。くれぐれも使用は慎重に。本来は医療機器ですから。

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2006年8月11日 (金)

イチロー選手はなぜ200本以上の安打を打てるのか

イチロー選手はなぜ200本以上の安打を打てるのか

8月8日火曜日、愛知学院大学モーニングセミナーを受講しました。今月で5回目ですが夏休みのためか特別に2時間枠。前半を名古屋市立大学学長で医学博士の西野仁雄先生の講演「大脳生理学的解析から考える」。

後半は元中日ドラゴンズ監督で名二塁手として鳴らした高木守道氏が参加されて「理論と実践との対話」。

テーマは「イチロー選手の活躍を通して、わたしたちの脳の仕組みはとのようになっているのか?脳はどのように働いているのか?脳の働きを盛んにする(強くする)ことができるのか?」 大変に興味深い内容でした。

当日頂いたレジュメからの抜粋と聞きかじりをここに紹介いたします。学術的な部分はレジュメからで、ところどころにある感想めいた文はわたしの感慨とか考えです。論文ではないので、その差異が明確になっていません。申し訳ありません。格調高いところは西野先生のお話と思ってください。

脳の話

野球はボールを見て反応します。

それは

視覚入力

 視覚野

 運動野

 筋収縮

という反応でその速度は約130から200ミリ秒。

それに対して身体の動きは

 体性感覚

 運動野

 筋収縮

でその速度は60から130ミリ秒。

身体反応の方が約半分の速さで行なわれますから、ボールを見て反応しても十分打てることになります。それらを磨いてイチローが存在します。

イチローはどうしてあんなによくヒットを打てるのか?

どうしてレーザービームの球を投げれるのか?

どうしてあんなに速く走れるのか?

イチローは父親によると子どもの頃から「やんちゃで大の負けず嫌いでがんこ」だったそうです。その遺伝的特質に加えて小学三年から中学三年まで高校生以上の練習を1年に363日行なっていました。

しかもその内容は

 ボール球は絶対に打たない・・・・選球眼が養われた

 毎日テイバッティングを行なった・・・柔軟性が養われた

 その他豊富で質の高い練習によって「努力、持続、忍耐力、集中力、意志、感動、自信、目的、将来設計」が形成されました。

既に六年生のとき、将来プロ野球の選手になると作文に書いています。

「ぼくの夢は、一流のプロ野球選手になることです。そのためには、中学、高校で全国大会に出て、活躍しなければなりません。活躍できるようになるには、練習が必要です。ぼくは、その練習には自信があります。(中略)そしてその球団は中日ドラゴンズか、西武ライオンズが夢です。ドラフト入団でけいやく金は、一億円以上が目標です。」

六年生にしてここまでしっかりと具体的な目標を立てていることには驚かされます。しかもそれを実現していますから。

再び脳の話

脳は使えば発達します。

イチローは小さい頃から野球のための身体と脳を上手に使って今日があるのでしょう。持って生まれた才能だけではそれを開花させることは無理なようです。

ネズミの実験で、豊かな環境(色々な玩具などが置いてある)で飼育すると、神経細胞の新生が高まり、新たな環境への適応性が高まるということが確かめられています。つまりイチローもチチロー(イチローの父親の愛称)の指導で一生懸命的確な練習を続けたからこそ超一流の野球選手になれたのです。

脳には神経幹細胞が存在し、70~80歳になっても、たえず新しい神経細胞を供給しています。

脳は大きな可能性をもっていて、使えば、使うほど、活性化され、よく働くようになる。

 

イチローは天才か?

イチローは類稀な素質を持っています。

 反射神経

 動眼視力

 瞬間視力

それに加えて

 練習の虫

 努力の人

 天才とは1%の才能と99%の努力(エジソン)

イチローは努力できる才能がある。

これは天才と呼んでいいでしょう。

このあと、同じく野球の天才である世界のホームラン王の一面が紹介されました。

王監督の座右の銘

1、まごころにそむいていませんか?

Have you not gone against sincerity?

2、言葉や行いにはずかしいことはありませんか?

Have you not felt ashamed of thy words and deeds?

3、気力がかけていませんか?

Have you not lacked vigor?

4、努力をおしんでいませんか?

Have you not exerted all possible efforts?

5、なまけていませんか?

Have you not become slothful?

世界のホームラン王は今日でもこの五つの反省を毎日行なっているそうです。人格者と目される王さんらしい話です。

以下、三島の意見ですから読み流してください。

上記の反省文を読んで、70歳以上の方ならピンとくることでしょう。これは当日西野先生もおっしゃっていましたが、元になっているのは旧海軍の五つの反省「海軍五省」です。今日の自衛隊にも継承されているとのことです。戦後、進駐してきたアメリカ海軍がこの文章を見つけて感心し、現在でも海兵隊で心の指針とされているのだそうです。

海軍五省

一、至誠に悖るなかりしか(しせいにもとるなかりしか)

Hast thou not gone against sincerity?

一、言行に恥づるなかりしか(げんこうにはづるなかりしか)

Hast thou not felt ashamed of thy words and deeds?

一、氣力に缺くるなかりしか(きりょくにかくるなかりしか)

Hast thou not lacked vigor?

一、努力に憾みなかりしか(どりょくにうらみなかりしか)

Hast thou not exerted all possible efforts?

一、不精に亘るなかりしか(ぶしょうにわたるなかりしか)

Hast thou not become slothful?

王監督が野球人として生涯にわたって人格向上のために日々上記の項目で反省されることは素晴らしいことです。しかし、それとは別に少し腑に落ちない点があります。

それは「誰が、何のために、何を、どう反省して、どうしようとするのか」という問題です。

ここが欠落してこの五つの反省だけを持ち出すと人格を自分の予期せぬうちに、あらぬ方向に誘導、形成される恐れがあります。それが大日本帝国軍の行為であったことは到底忘れるこが不可能なことです。ここは美談として聞き流すことはできませんでした。

さて、脳の話に戻ります。

前頭葉を鍛えよう

前頭葉の働きは

 意志

 報酬の認知

 感情のコントロール

 将来に対する予測、計画

イチローの送球はそのスピードと正確さからレーバービームと称されます。それは単なる運動能力だけではありません。

イチローのレーザービームのためには「肩の強さ、コントロールの正確さ」に先立って、「準備状態と予測(イマジネーション)」が必要です。

イチロー談

「あのプレーに関しては見てから投げて、ではもう遅い。一番大事なのは背中でランナーとセカンドベースを感じること。見てないところで見えていないと、できないことはある」

これはまさに脳の機能を物語っています。

日本人がアメリカで野球をやろうと思ったら

イチロー曰く

「何よりも大切なことは自分で自分を教育できることだと思います。自分で自分をコーチできる、そういう能力。(中略)人のやることも自分のことのように捉えて、自分だったらどうするかといことを常に考えていられるかどうか。(コーチは自分の状態を知らないのだから、コーチを受けることはとても危険)だから、自分で自分をコーチできる能力が絶対に必要です。」

と、自己教育能力に触れています。

“自分で自分をコーチできる能力”

  問題を設定(意識)する

  思案し、考えめぐらす

これなくしてアメリカで野球をすることはできないということです。しかしこれはあらゆる分野にいえる事です。一流選手の自己分析能力の素晴らしさを感じます。

自分を高めていく 野球に対する取り組み方

 -完璧主義、徹底した自己管理-

イチローは試合の前に実に周到に根気よく準備します。

・本拠での試合なら約5時間前に動き始める入念なマッサージやストレッチ体操を約1時間行なう

・道具類(バット、グラブ、スパイク)をことのほか大切にする

同僚はそんなイチローを見てこういいます。

「あいつを見ているだけで、疲れてくるよ」

それに対してイチローは

「練習にもっと時間をかければ、ずっとよくなるのに」

まさに努力の人です。

ここから総括に入ります。

こころのもち方によって、脳を創り変えることができる

イチローはどうしてあんなによくヒットを打てるのか? 

 才能(遺伝子)、性格

 環境

 繰り返す練習(努力)

 意志

 心のもち方

自分で自分をコーチ(目標を高く設定し、それに向って進む)

常に脳を鍛え、進化させている 自分らしさをみつける(個性)

やりたいことをみつける(目的)

自分の中にイチローを見つけよういっしょけんめいやる(努力)

チャレンジする(挑戦)

力をあわせる(協力)

ありがとうの気持ちをもつ(感謝)

脳 Brain は最もすばらしい創造物

・膨大な数の素子からなる

 神経細胞、グリア細胞、ネットワーク

・大きな可塑性、適応性をもつ(柔軟である)

 使えば使うほど、新生、発芽、シナプス効率の向上がおこる

・脳内には神経幹細胞が存在している

 70~80歳になっても、神経細胞を補充し、機能を維持している

・常に進化する可能性をもつ

 心のもち方によって、私たち自身の脳を作り変えて行くことができる

以上が西野先生の講演の骨子でした。

第二部は高木元監督による野球技術の話やご自身の裏話、野球界の知られざる話などで盛り上がりました。予定を30分過ぎても終了せず、わたしは仕事があるので残念ながら中座しました。

高木氏を横にして名古屋市立大学学長西野教授は対談をするはずなのに、拝見するところ一野球少年の顔に戻り、憧れの高木選手を熱く仰ぎ見る状態でした。

場内からも白髪の野球ファンが熱心に質問を飛ばしていました。ある人から高木さんはドラゴンズファンにとっては王、長嶋以上の存在だと聞いていましたが、なるほど、まさにそんな感じでした。

今回の講演は夏休みということで少年の参加を予測されたのでしょうか。

脳の機能とイチロー選手の活躍にからめて、少年たちに夢や希望を与える素晴らしい内容でした。

しかし残念なことに参加者は中高齢者中心で、子どもたちの姿は少なかったようです。それでも夢や希望は幾つになっても必要なもの。脳の機能は高齢になっても十分新生している事実は大変な励みになります。

来月のモーニングセミナーは9月12日火曜日午前7時から8時。内容は「さりげない日常運動と健康維持」講師は鷲見勝博中京大学教授です。

追記

高木元監督の母校岐阜県立商業高校が今年の夏の甲子園に出場しました。わたしは高木氏の二年先輩にあたる方を知っています。以前、今池の名物居酒屋「六文銭」を経営していた方です。その方のブログに名門野球部の悲しいエピソードが書かれています。ご一読ください。

http://pub.ne.jp/rokumon/?entry_id=268485

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